vsゴブリン。憂さ晴らし頭が重い…?
そういや朝から眠気のようなモヤーっとした感覚が時々あった。
昨日は下見と準備をしただけだし、まぁ酒は飲んだけどいつもどおりの量。森を歩いていて気づかない間に毒草に触れてた、なんてことも冒険者ならよくあることだが状態異常の確認はしている。
「万全じゃなけりゃこんなとこ一人でこねぇよ」
========
今日の目的は少し前からゴブリンが住み着いたという小洞窟。
ギルドにあった情報だと[中背程度が5~8匹ほどの小さな群れ]らしい。
まだ被害があったわけではないが少しずつ行動範囲が街に近づいてるための討伐依頼で難易度はC級。
C級上がりたてパーティが初のモンスター討伐にいくのにちょうどいいくらいの任務だと思う。
憂さ晴らしにはちょうど良い難易度だった。
そう!全部アイツ等が悪い!!!
ついこの間、いつものようにギルドの仲介で助っ人に入ったパーティ。そいつ等ととにかく相性が合わなかった。
盾役と進み方で揉め取っ組み合いの喧嘩になりダンジョン中腹で現地解散。
ひとりでなんとかダンジョンを抜けたが用意してたポーションはヒーラー兼荷物持ちだった男に大半を持たせていて回収できず、途中狼型のモンスターに襲われて、片腕の装備を失った。その日暮らしのソロ冒険者にとって大赤字だ。
(しかもアイツラはそのまま依頼を達成して報酬を得たらしいから最悪だ!!!)
そういうわけでパーティなんかしばらく御免。一人で程よく暴れられる依頼をとってきた。
もちろん俺だってちゃんと冒険者だ。憂さ晴らしとはいえ何が起こるかわからないモンスター討伐を甘く見てはいない。
下調べも装備も整えたし、特に体調には気をつけている。
(でもなんだこの頭のグラつきは…?)
すでに洞窟中腹に足を踏み入れており、正面を曲がった先に焚き火の明かりが見えていて気配も4つ感じる。
ゴブリンやオークはモンスターでありながら社会性があり、この先に居るのは巣に残り火の番をする子育て中のメスやその子、少数の守り係といったところだろう。
戦力となる数匹が狩りでここを離れてるうちに、先に巣を叩く算段だった。
しかしこう振り返っている間にも頭の重さは増すばかりで水魔法で張っていた薄い防壁も崩れ始めてしまった。
(…とりあえず一度洞窟から撤退…)
「え?」
頭の重さと同時に目を瞑ってしまっていたことに気づいた。
というか座り込んでしまっている。張っていた水の防壁が解けて水たまりを作り服はビシャビシャになっている。
(こんなところで意識飛ばしたのか?!どれくらい………マズイっ‼)
腰のポーチから気付薬を取り出し口に放り込む。
奥歯で砕くととんでもない苦みと鼻を抜けるハーブの匂いで嫌でも覚醒する。
自分が提供した薬草で出来てるとはいえあの魔女!なんてもん作りやがる‼
しかし今はその刺激で意識は保てそうだから助かった。
すぐに出口に向かって顔を上げた。
「あっ」
間抜けな声が洞窟に響く。
目の前には剣と弓を構えたゴブリン。
ボカッ
巣の守りが気づいて後ろから迫っていたらしい。
やつの棍棒が後頭部に振り下ろされた。
「ーーーっつ~~~~~こんのっ!」
守り役は子供なのか、驚きはしたがそこまでのダメージはない。
即座に棍棒を持つ手を掴みゴブリンを放り投げる。
ギャギャ‼
今頭を殴られたことで突然頭がクリアになった?
急いで体制を立て直し壁に寄りゴブリン全員を視野に入れる。
あっという間に巣から来た残る3匹と外から帰ってきた3匹に囲まれてしまっているが、投げ飛ばして伸びてるやつをふくめて
(…全部で7匹か)
中背のゴブリンは人間と比べたらリーチが短い。
外帰り側の弓持ちさえ気をつければどうとでもできる!
服を濡らしていた水を手のひらに集め水の塊を作り弓持ちに投げる。と同時に飛び出し、巣から来た2匹を一気に蹴り飛ばして踏み込んだ先のもう1匹の棍棒を奪いそれで殴り飛ばす。
剣持ち2匹に向き直り棍棒を握りしめ、ゴブリンの顔を睨みつけた。
緑の肌に高い鼻。目は細く横に伸びていて耳はでかい。
本で見た餓鬼ってかんじの細い手足にデンと出た下っ腹。
かわいくない。
(ゴブリンってもっと小さくてかわいい仮面つけてなかったっけ?)
いや、もとからゴブリンはこんな顔だが??
突然浮かんだ考えにツッコミを入れつつ、剣持ちが振り上げた剣をゴブリンの棍棒で受け止める。
ガッ
鈍い音を立てた剣は棍棒に刺さって抜けなくなってしまったようだ。
ひょいと引っ張るとゴブリンごと持ち上げてしまく。
剣を手放すかと頑張る宙ぶらりんのゴブリン。
もう片手に拳を作りニッコリ微笑みかけてやる。
目的の憂さ晴らしが出来そうだ。
=======
あの後もう一匹のゴブリンの剣も奪って、全員素手で存在を保てなくなるまで思う存分殴り飛ばしてやった。
7匹のうち3匹からは小魔石と、巣にはゴブリンのメスがオスのために作るという獣の牙や骨で作った装飾品と、森の奥でしか見かけない珍しい薬草があった。
期待はしてなかったがこれと依頼料でこの間の赤字をまかなえそうだ。
(こういう装飾のドロップ品、あるあるだよね)
いや、趣味悪いし獣臭いし…。俺にはわかんねぇけど売れるんだよな。地味に
ダンジョン化していないとはいえ、魔物7匹分の瘴気が散っているので浄化魔法の陣を描き魔力で満たす。
後は洞窟の入口を塞いで任務完了。
小さい洞窟にいたので空を仰いで背中をぐっと伸ばす。
(さてツイッター見るか)
ポーチからいつも使っているメモ帳を取り出して、その表紙の中央に四角を描いて人差し指を上にスライドさせる
「んっ??え?」
無意識の行動に驚いて、次に頭に浮かんだ文字に頭を抱える。
ぱんつのおさしみってなに??