神域に降りた鬼――これが。
注連縄で結界の張られた古びた本殿を目の前に、高杉は小さな足を止めた。村の、本来なら産土神が祀られている建物だ。信仰が厚く綺麗に整えられているが村の貧しさを反映してか構えは決して立派といえず、強めの嵐が来れば一度で崩れてしまいかねない佇まい。しかしその正面に場違いなほど真新しく頑丈な鉄格子が大量の釘で縫い付けられていた。鉄格子の前にこの時代としてはかなり上等な部類の布団が敷かれている。
――なるほどね。そこに寝ろというわけだ。
満月とはいえ木々に遮られて薄暗く、神社の外はここから見えない。いっそ逃げてしまっても気づかれないのではとすら思う。が、警護の村人が多数待ち構えている気配がある。高杉はサーヴァントである上に生前剣術も皆伝まで修めている。まともな武術を習得していない一般人など敵ではないので簡単に突破できる。……そう、普段なら。
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