海の魔女は丸いものが足りない あるところに、人魚たちのつくった楽園がありました。それはそれは美しい海底の王国で、色とりどりの珊瑚に囲まれて、人魚たちが鮮やかな尾びれを優雅に揺らしながら泳ぎ、暮らしていました。
その王国の魔女の一族にドラルクという名前の男人魚がおりました(魔女とは悪魔を信奉する者たちのことでしたので男でも魔女と呼ばれていました)。上半身は人の体で、下半身は魚の人魚であり、尾びれは幻想的なほどに美しい、きらめく紫色をしていました。そしてドラルクの歌声はどの人魚よりも美しく、楽園にふさわしい、悪魔ならぬ天使の調べと褒めたたえられていました。ドラルクは両親を筆頭とする一族から非常に愛されて、何不自由なく暮らしていました。
1987