輪廻転生とは、命あるものが何度も転生を繰り返すこと。様々な生き物へと魂は移り変わり、一生の間だけ記憶の保存が許され、転生後は忘れてしまう。
神と呼ばれる存在は、生命をどれほど保管しているのだろう。増えすぎた生物のサイクルは、ときに絶滅という最期を迎え、そしてまた小さな新しい生物がその後の世界を生きていく。
そして俺もそのサイクルの一部だ
違和感のある記憶。
体が作られる母の中よりもっと前の記憶。
栄える国、豊富な作物、発展した文明…今は見ない未知の技術に恵まれた場所。俺はそこに住んでいた、愛する妻もいた…そして双子の子供が二人…幸せな家庭を築いている"夫"の記憶
今の俺は独身で、結婚していないし子供は当然いないはずだが、これは紛れもない自身の過去、日々の会話や暮らしがまるで日記を読むように事細かに残されている記憶だった
だが記憶は日数を重ねるたびに悲惨になっていく。
恐らく星同士の戦争だろう…沢山の同族と異種族が目の前で死んでいく、争いで食料は取り合いになり、愛する妻は子供の為に何も口にせず餓死し、俺も外へ出て食料を略奪しようとして死んだ…
その後二人の子供はどうなってしまったのだろうと気になり、記憶を頼りにデータ保管室で星を探す
………。
が、その星はもうすでに存在していなかった…
破滅を迎えた愚かな星、子供の為が生きているかもしれない希望は掻き消される
あの頃は幸せだった。
市民は不満なく幸せに日々を過ごす…なのに偉い者達が欲に溺れ、争いを始めて星全体を周囲の星々を戦争へと巻き込んだ。俺の愛する妻と子供を…罪もない命を無惨にも奪っていった
塵になった故郷の星。人生の宝だった家庭。
今の俺には関係ないと思いながらも忘れることが出来ず、もしあの頃に戻れるのならと考えてしまう
せめて最期は二人の子供を抱きしめて死ぬべきだったと永遠に後悔している。
俺は物を長く大切にする癖があり新しいものに目移りせず、一つのものをできるだけ長く使いたかった
もう二度と失いたくない。そう後悔する心が俺を縛り付けるように
そしてある時、出張先で骨董屋を名乗る店に立ち寄った…そこで俺は刀身のない刀を見つけた
骨董屋の主人は、見た目で仕入れてしまったらしくデタラメな刀はゴミだとタダで俺に押し付ける
初めは俺自身もゴミは必要ないと、断ろうとしたのだが持った瞬間まるでこの刀に記憶があるように感じたのだ
そのまま家に持ち帰り、不思議な感覚に酔いながらも刀に付いたホコリを優しく払い、しっかりと手入れをして部屋に飾る。年月を重ねていくたびに階級は上がり中将にまで上り詰め、家に帰ることが少なくなっていった頃、異変に気づく
ふと周りを見たとき刀が近くにあるのだ…
そう…家に飾ってあったあの刀が、まるで誰かに運ばれたように俺の近くに置いてある
どこへいっても…星を離れても側にその刀は常にあった、まるで俺に付いてくるように
カチャリと音をたてるも、拾い上げた刀には、やはり刀身は無く軽い…ゆっくりと刀を撫で、気分で一振りしたその瞬間だった
目の前に斬撃が現れ、壁に巨大な穴を開けたのだ
無いはずの刀身は、あった頃の記憶を忘れられず、ゴミなった今でもその力を発揮する。
「…お前も俺と同じなのか?」
物には命が無いはずなのに記憶を持ち、そして俺に付いてくる
過去の記憶に囚われて、戻りたいと思う感情が伝わってくる
"失っても平気だ"そう言い聞かせた
それは刀に対してなのか自分に対してなのか明確にしないまま
力というのは上のものが扱わなければいけない。賢いものが管理すれば争いなどそう簡単には起きないのだ、道具のように…上手く扱えないのなら、早いうちに処分しなくてはいけない、それが例え儚い命だとしても。
ーEnd