「これもないのか」
カドック・ゼムルプスは、苛立つままに舌打ちをした。
その日は、寝付けない夜だった。妙に落ち着かず私室から出てきたカドックは、 暇を持て余していたし、文字でも読めば少しは眠気がやってくるだろうと安易な期待しつつ図書室に訪れた。
カルデアの通路はどの時間帯も煌々と明かりがついているが、夜は流石に図書室の利用者が少なくなるため魔術で管理された蝋燭の灯りだけが部屋を照らしている。
少し暗いがカドックは他の灯りを用意することも無く慣れた動作で本を探すが、読み直そうとしていた魔導書も読みたかった資料も軒並み貸し出し中となっていた。
柔らかな絨毯の上で鳴る足音が妙に力強い。苛立ちを自覚しながらまた次の本を探すが、またもやない。
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