愛に恵まれた瞬間里田愛恵(さとだ いとえ)。
女みたいな名前だが、両親から『愛に恵まれる人であるように』という思いを込めてつけられた名であって、俺は男である。
俺はこの名前が大嫌いだ。愛に恵まれる?冗談じゃない。学生時代は散々この名前でからかわれた。幼い頃はイトエという男らしからぬ響きを、思春期には漢字の並びを。
今まで男女問わず笑われてきたし、大人になった現在は名刺を渡す度に、変わったお名前ですね、なんて言われるのはお決まりだ。
そしてそんな俺は本日、二月十四日に三十二歳になる。そう、バレンタインデーが俺の誕生日なのだ。
名前といい誕生日といい、愛とか以前に俺はなんて恵まれていないんだ。
彼女なんて存在したこともない俺は、本命のチョコレートも勿論もらったことがない。それどころか誕生日プレゼントを兼ねた義理チョコを、同僚の女の子たちがお情けで渡してくる程度。無駄に律儀な俺は、ホワイトデーにそのお返しを渡す。
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