俺と目薬と202号室 廊下に人けが無いのを確認してから、速やかに自室を出る。202号室の前に素早く到達し、ドアを控え目にトン、トン、と叩いた。
「どうぞ」
中から聞きなれた声が静かに応えてくれて、俺はドアを開け、顔だけ覗かせ室内を伺った。
「ん、海堂か。どうした」
部屋の中には乾先輩がひとり。勉強机の前に座って、こちらを振り向き穏やかに微笑む。ちょっとホっとしつつ、中に滑り込んでドアを閉める。
「……ほかの、先輩方は……」
「ああ、千歳はいつもの徘徊、観月は徘徊する千歳を探しに出かけたよ」
「柳さんは……?」
「何でも切原がドングリを拾いに行ったまま戻ってこないらしくてな、探しに出かけたよ」
「みんな、誰かを探して……」
「そうだな、人は皆、誰かを探して生きているのかもしれないな……」
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