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    しどえい。みじかめ

    左側の空白 平日の夜。深夜ではなく、しかし今から出掛けるには遅すぎる時間。英司は家で思わず足を止めた。リビングには刀や拳銃、何に使うのかロープや麻袋が一箇所にまとめて置かれている。その直ぐそばには用意しただろう家主兼恋人が胡座をかいて座っていた。それなら仕事だろうか、と思い一言二言声を掛けただろうが、どうやら整備中らしく上半身に衣類は纏っていない。

     どうしても、先のない左腕に目がいってしまう。
     
     片手で鈍い銀色の義手に油を差していく姿は手慣れたもので、けれども彼の腕がなくなってから時間が経っていないのも事実だ。義手を使いこなす政を見慣れてしまって、たまに失ったのは実はあの夜の幻覚で、本当はそんなことはなかったんだろうと思ってしまう時がある。が、それを否定するように彼の後ろ姿はその部分をかけたままそこにある。
     
    「英司さん」
     
     ふと政に声をかけられた。それもそうだ、彼は気配に敏感だ。本当はもっと早くに気付いていたのだろうが敢えてこちらに声をかけてこなかったのだと思う。なんですか、と聞き返した自分の声が少し掠れていた。
     
    「今から仕事だけど、帰り何か買ってくるか?」
     
     しかし当の本人はあっけらかんとした様子でそんな日常の話を振ってくる。彼にとっては今からする事が元から日常であったけど、英司からすればまだ日常になり切れていない。
     今、片腕のない政を見ているから、尚更。
     
    「……いえ、特に必要なものはないですね。欲しい物も。ただ……怪我はしないでください」
    「わかった」
     
     政が頬を緩ませながら義手を着ける。英司の言っている事は殺し屋の政に対してかなりの無茶振りなのは理解している。相手がただ殺されてくれるならばともかく、当然抵抗だってされるし反撃も受ける。大なり小なり傷付くことは当たり前で、しかし英司の頼みは一つもつけないでくれと同義だった。それが難しい事を知っていながら願わずにいられない。
     それを政は穏やかに笑いながら、叶えようとしてくる。嬉しいと思う反面、そのせいで彼が思う様に動けないのではないか、と時々思ってしまう。
     
     上着を身につけた政は、側から見れば隻腕だとは思えない。現金だがそこに少しほっとする。
     
    「すぐ帰ってくるけど、寝てていい」
     
     荷物をまとめながらそう言って、政は出て行こうとする。リビングから出る直前、くるりと踵を返して英司の真正面に立った。
     ふに、と唇にやわい感触が乗る。一瞬後には離れて、呆気にとられる英司に政が笑う。
     
    「大丈夫、今日もヘマはしない。だから待っててくれればいい」
     
     見透かされたのだろうか、と思った時にはもう彼は家から出て行っていた。無人の家で一人になって、思わずソファに座り込む。
     
     大丈夫だと、思いたい。
     だがいつ死んでもおかしくないと言ったのは、待っていてくれればいいと言ったその口だろうと英司は独り言ちた。
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