【1/29とらきば冬まつり】マダマダ・トチュウ【サンプル】 315プロの社用車の窓は少しだけ開けられていた。
夏は盛りを過ぎ、早朝は涼しさが感じられる。半分ほど開けた窓の外に目をやる大河タケルが深呼吸すると肺の中は冷たい空気で満たされて、滑り込んだ涼風がタケルの前髪をそよと撫でた。
「暑かったり寒かったりしませんか?」
「ちょうどいいッスよ」
運転席のプロデューサーの問いかけに助手席の円城寺道流が返事をし、後部座席のタケルはうなずく。窓から顔を離して隣を見れば、牙崎漣はうとうとともう片方の窓辺に寄りかかっているところだった。
(……静かでいいな)
思いながら、タケルは鞄の中から分厚い冊子を取り出した。
映画『アンダーエッジ』のオファーを受けたのはつい先日のこと。ヴォクサーの役のイメージを掴むためにも台本は読み込まなければいけないと、タケルは冊子のページを繰る。
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