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    よつば

    @chiyotsu1015
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    よつば

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    6日に間に合う気がしないので今かけてるやつを先行で上げちゃいます センゴクさんとコラさんの出会った頃の話書いてみたかったんだ……

    来なさい、の一言に肩を震わせ、近づいてくる小さな影。センゴクはそれを待ちながら、二週間前よりはマシになったと思う。拾ってきた時はこの世の全てに怯えているようだった。話の振り方にもしばらく困らされたものだ。
    ロシナンテは恐る恐るセンゴクの机の前に立ち、ぎこちない敬礼をした。執務室に震えた声が響く。

    「な、なんでしょうか、センゴクさん」
    「そんなに怯えるなと言っているだろう」
    「す……」
    「"すみません"は禁止だ」
    「……いご、気をつけます」
    「そう、それでいい」

    以前ひどく怯えられたのを思い出して、センゴクは撫でようとした手を引っ込めた。暴力の前兆と勘違いされたのだと分かったとき、彼の『身寄りがない』の裏が見えた気がしたのだ。同時にわかった。それが触れるような話題でないことも。
    きっと長い付き合いになる。お互いに少しずつ理解して、慣れていくしかないのだろう。
    行き場のない手はとりあえず机の上に置かれ、卓上カレンダーの隅を掠めた。
    その時、本来の議題から逸れた疑問が浮かび上がった。触れたカレンダーを持ち上げて、こちらを見つめる金髪に問う。

    「……そうだ。お前誕生日いつだ?」
    「えっ!?」
    「あー赤の……どこにやったか……」

    インクを探してのらりくらりと引き出しを漁るセンゴクに対し、いかにも反応に困っているロシナンテ。なかなか見つからないままセンゴクは言葉を続ける。

    「誕生日がないなら、私と会った日でもいい。好きな日でも。ああ、今日でもいいぞ」
    「……!?」
    「いや、今日はダメだな。今から買いに出るのは難しい……あった。で、何日───くっ」

    引き出しから顔を上げた彼は、間抜けな顔のロシナンテを直視してしまい、喉の奥から変な音をあげてしまった。
    目をまんまるく、口を思いっきり開けているロシナンテ。凄まじいアホ面はセンゴクにとって予想外のもので、こみ上げてくる笑いを押しつぶして耐えなければならなかった。笑ってはいけない。嘲笑されたと思ったらこの顔を二度としなくなってしまう。
    持ち前の精神力で自身を律し、センゴクは改めて聞き直す。

    「……何日なんだ」
    「し、ちがつの……十五日、です」
    「そうか、近いな」

    丁度今月が七月だったので、十五日に丸をつける。その動きをする中でもロシナンテはアホ面を続けていたから、丸が変な形になってしまった。維持性の高い変顔だ。ツッコミを入れるべきなのか。
    書き終えた物を机の上に設置し直し、咳払いを一つ。とりあえず別の話題で彼の顔を戻さなければならない。少し悩んで、自然な流れの質問を選んだ。

    「で、なにか欲しいものはあるか?」
    「えー!?」
    「はァ!?」

    更に驚いて盛大にひっくり返ったロシナンテ。垂直に飛んで綺麗に背を打った反応にびっくりしたセンゴクは、慌てて椅子から立ち、彼を起こす。流れで目線を合わせて、立ち膝のままツッコんだ。

    「そんな驚き方あるか!?」
    「すっ……以後気をつけます!」
    「本当にな!頭を打ったら洒落にならん!」
    「すみません驚いてしまって」
    「こっちのほうが驚いたわ!砲台かお前の体幹は!」

    ツッコミの主は騒がしい心臓を落ち着けようと深呼吸する。ボケたつもりのなかった子どもはセンゴクの反応に瞠目して、それから自身と彼に明確な価値観の差があることに気がついた。驚くのを一旦やめて、違いを確かめるために質問する。

    「あの……お祝い、してくれるんですか?」
    「ん?そうじゃなきゃ聞かないだろう。……祝われたことがないのか?」
    「……わからないです」

    ロシナンテは回想する。
    隠れるように暮らしていた母が病床に臥し、起き上がるのも厳しくなっていたとき。弱々しい手で頭を撫でてもらった夜。

    『ごめんね、あなたに何も贈れなくて』
    『かあさま……』
    『本当にごめんね……抱きしめることだって、できなくて……』

    結局母もその日の父も、自分におめでとうと言わなかった。ただ涙と謝罪の言葉ばかりで、祝われたと感じることもなかった。
    それはきっと我が子の生を悔やむのではなく、自分に祝う資格がないと思っていたからなのだろう、と気がつくのは数年後になる。八歳のロシナンテは余裕がなかったんだと推測した。隣にいた兄はずっと別のことを考えていて、日付の感覚すら無くしていたから、もっと余裕がなかったのだと思う。
    だから、日付を確認された上プレゼントを用意される環境や、多忙にも関わらず時間を割くセンゴクに彼は仰天したのだ。
    それと同時に、拾われた自身が恵まれているのだという自覚と、両親や兄に対する背徳感、申し訳無さが次々と湧いてきて、また萎縮してしまう。

    「……いいのかな」
    「うん?」
    「そんな、祝ってもらえるようなこと何もできてないのに、いいんですか?」
    「何を言ってる?」

    顔色を伺っていたロシナンテは、呆れ返ったセンゴクの顔に困惑した。対するセンゴクは、眼前の子どもが言っていることの腰の低さに嫌気が差す。まだ八歳のガキがここまで謙遜する世というのも嫌なものだ。自分が拾えていない、似た境遇の子が山ほどいるのだと考えるだけで辟易する。

    「祝われる側がそんなことを気にするな」
    「えっ……」
    「いいか?誕生日が来ても、お前はいつも通り過ごせばいいんだ。構える必要も備える必要もない。ワクワクはしていいが」
    「ええ……」
    「そうしたら、言葉や態度一つからパーティーまで、色々な祝福が勝手にやってくる。来ないときもある。お前はそれを自分なりに受け止めればいい。なあに、学ぶ機会はたくさんあるぞ。ここはクセの強い奴らが多いからな」

    センゴクはそっと手を出して、ロシナンテの頭を不器用に撫でる。彼はされるがままでセンゴクを見ていた。何を言っているのか全然わからないという表情で。
    それでも撫でる手に怯えなくなっているのを、センゴクは親睦の前兆であると感じてやまなかった。

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