Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    sakura_grbr

    @sakura_grbr

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 27

    sakura_grbr

    ☆quiet follow

    タイトル通りのパロ話。この設定でほのぼの日常漫画描きたいなと思ったところ前提を漫画家するのが大変そうなので出会い編成長編を簡単に小説にまとめたもの。今後この設定でちょくちょく小ネタ漫画描くかも。まだkngm出てきません。

    【kncg/ngro】千切とスマホ凪とタブレット玲王の話 世の中は激しく移ろう。数年前に普及したスマートフォンはどんどんと進化し、最新のAIが導入されたかと思いきや、その数年後には更なる進化型のモデルが発表された。
     最新モデルとして一挙に話題を攫ったのは、人型モデルのスマートフォンだった。元々持ち運べる電話機として開発が進んでいた商品はどんどんと小型化し、持ち歩きの利便性が最優先されていた。しかしどんどんと新たな機能が追加されるうち、ヒトに扱い切れる範疇を超えてしまった。人間の手に余る部分を全てオート化した新型機は、頼むだけで大抵のことはこなしてしまう便利な存在として話題をさらった。
     
    【大切なあなたの相棒を、友達に。家族に】
     
     そんなキャッチコピーのもと、人型をした最新型スマートフォンは発売され始めた。
     AI機能を最大限に投入した新型機は人の姿を模していることからその時点で多大な選択肢があった。女性には美形の若い男性の姿をした機体が、男性にはスタイル抜群の女性の姿をした機体が人気となった。性格も好みに調整でき、設定によっては友達モードから恋人モード、果てには親や子として振る舞わせることまでできた。
     もちろん新型機は恐ろしく高額で、まずは富裕層に普及し始めた。設定によっては炊事・洗濯・話し相手など何でもしてくれるので、中には孤独な中間層が新型機購入のために到底返済できない借金を負うといった社会問題も発生した。というのも、金さえ積めば新型機にはよりリアルな質感を出して人間と区別ができないほどのクオリティを出すことが可能であり、一緒に食事をしたり場合によっては肉体関係をもてるようにオプションをつけることができるということもあったためだった。
     何より注目するべきは、AIの利用度を調整することにより新型機は果てない進化を遂げることができた。所有者と暮らす中で吸収したあらゆる体験、知識。それらを学習し自らのものにしていく。ただしその機能を搭載した場合、新型機自身が自分の所有者を尊重しなくなるリスクがあるため原則として制限がかけられていた。新型機に求められたのは〝人間にとって都合の良い便利な存在〟であり〝自らの感情を持ち所有者を判定する生意気な存在〟ではなかったのだから。
     
     千切豹馬は、そんな移り変わりの激しい時代に思春期を迎えていた。
     華々しいCMがテレビやネットを沸き立たせる中、母の手料理を食べ切って「ごちそうさま」と言い残しさっさと台所を後にする。ようやく普通に歩けるようになった右脚を庇いながら自室へと向かうその背を心配そうな視線が追う。それに目を伏せながら自室に戻ると、ろくな照明もつけずにベッドに横になる。
    (友達……家族、か)
     部活に足を運ばなくなって以降、ずっと退屈な日々が続いていた。自信を持って走れていたときには周りにも人がたくさん集まっていたが、大怪我をして以降は波が引くように誰も残らなくなっていた。寂しいのかと自分に問えど答えは出ない。家族は以前と変わらず接してくれてはいるが、どうにも罪悪感がずっしりと身体にのしかかるようだった。
    (ま、俺には縁がねえもんだし)
     前時代的なスマートフォンに映る新型機の宣伝ページを閉じ、深くため息をつく。今は未来に何も光が見えない状態だった。
     
     ただただ右脚を庇いながら鬱屈とした学校生活を送る日々。そんな雨の降る日の昼下がりだった。〝彼〟に出会ったのは。
     市街地から少し離れた郊外の、人気のない住宅街。近頃は空き家が増えていて更に通行者も減った中で、その家屋と家屋の影に埋もれるように人の形が見えたものだから腰を抜かすかと思った。雨に降られてドロドロになった大きな身体は固い地面に腰をかけた状態でピクリとも動かない。千切は恐る恐るその人影に近づいた。
    「おーい……大丈夫か? 生きてる?」
     そっと肩に触れる。その感触が冷たくて、ゾッと鳥肌が立った。事件だろうか。一応そうっと顔を覗き込むと、白い髪に隠れたその顔は図体に比べると随分幼いように見えた。
     身元がわかるものはないかと着ているパーカーやズボンのポケットを探ってみたが所持品は一切ない。ただし握られたままの右手に何やらくしゃくしゃになった紙が残されていることに気がついた。それを取り上げて見てみると、何やら説明書のようなもので。最も大きな文字で書いてある【個体識別名】とやらが目に入った。
    「凪……誠士郎?」
     その名を口にすると、ウィンと奇妙な機械音が一瞬だけ雨音に混じった。驚いて視線を濡れ鼠の彼に向けると、ゆったりと頭が持ちあがり、ゆるゆると持ち上がった瞼の下から現れた大きな瞳がぼうっと千切を見上げている。
    「……アンタが俺の、ご主人様?」
    「えっ?」
     その口ぶりに慌てて手元の紙に視線を戻す。落ち着いて目を通すとそれはまさに話題の新型機の説明書だった。それをこいつが持っていたということは。
    「お前、もしかして人間じゃないのか?」
    「俺は機械だけど」
     何でもないことのように言ってのける凪と名乗った存在は面倒臭そうに立ち上がった。でかい。可愛い顔しておいて、そこそこ高身長の千切よりも更にでかい。ただそれだけで臆する千切ではなかった。
    「なんでこんなとこいんの」
    「……わかんない」
    「え? 壊れてんのか?」
    「人間で言う記憶に当たるデータが全部吹っ飛んでる。俺も意味わかんない」
     言葉のやり取りは内容としては奇妙なもののスムーズで、高度なAIが搭載されていることがわかった。それとも騙されているのだろうか。どこからどう見ても人間にしか見えない。
    「お前が機械だったとして、持ち主は」
    「知らない。わかんない。データがない」
    「捨てられたってこと?」
    「あ、その言い方。傷ついたんだけど」
    「え……ごめん?」
     しかも普通にいわゆる感情が備わっている。普通機械は言葉で傷つくことはない。説明書に目を通すが、所々ドロドロに汚れてしまっていて大事なところに限って読み取ることができない。
    「ねえ」
    「何だよ」
    「名前は?」
    「お前の? ここには〝凪誠士郎〟って書いてあるけど」
    「それは知ってる。さっき声紋認証登録したから、次はアンタの名前」
    「俺の? 千切豹馬だけど……は? 今声紋認証って言った?」
    「はい登録完了。濡れないとこ連れてってよ、ご主人サマ」
     口車に乗せられてしまった。キュン、と凪の瞳が揺らいだ。これ、所有者登録されたってことじゃないか?
    「い、いやいやいや、こんなとこ捨てられてた怪しい機械なんか危なくて無理なんだけど」
    「あーまた傷ついた。いいから持ち帰ってよ。初期設定もいるし」
    「いやまじで無理。じゃあな」
     すぐに踵を返して走り出す。しかしバシャバシャと濡れた地面を踏みつける音がピッタリと後を並走している。でかいだけあって脚も長い。以前のように走れたならこんな奴振り切れるのに、と唇を噛む。結局家まで着いてこられて、お節介な母が凪を招き入れてしまった。一応盗難届は出すと言っていたが、あんな場所に捨てられていたのならば持ち主が現れる可能性は低いだろう。
     
     母に洗ってもらって、新しい服を着せてもらって(でかいから父の古着だ)、すっかり綺麗になった凪がのそのそと千切の自室に入ってくる。
    「何で俺の部屋来るんだよ」
    「何でって……所有者が千切だから」
    「それはお前が勝手に、」
    「いいからさっさと初期設定済まそ~」
     気だるげに遠慮なく千切のベッドに横になって、ひたすらに質問攻めにされる。答える度に凪の大きな瞳がキュインと揺れて、情報掴まれてる~と千切はため息をついた。
    「えーと、後は俺の立ち位置。兄? 弟? 友達?」
    「え……、……じゃあ、友達で」
    「オッケー。千切の友達って、何するの」
    「……別に、何もしなくていい」
     そう答えれば、凪は「そう」とだけ答えるとそのまま眠り始めた。本当に遠慮がねえなこいつ、と項垂れる。一切遠慮がなくマイペースで所有者相手にも敬語一つ使わない。こんなだから捨てられたんじゃねえのと考えつつも、やはり凪は相当な高性能なのだと実感した。
     
     それから数日が過ぎていった。なぜかでっかい家族が一人増えたような状況で、母は息子が増えたようだと喜んで世話を焼いた。むしろ凪といえば一切働かなかった。千切が家を出る時はベッドに横になったまま「行ってらっしゃ~い」とか言うし、帰ってくるとおやつを頬張りながら「お帰り~」だなんて言ったりする。更には食事まで一緒にとっていたので、前の持ち主は成金だったのかもしれない。機械だなんて言われなくてはわからないほど人間にしか見えない。触れればきちんと体温ほどには温かいし、機械特有の硬さも感じられなかった。
    「お前本当に機械なんだよな?」
    「そうだよ。電話もSNSもできるけど」
    「じゃあLINEで姉ちゃんに次いつ会えるかって送って」
    「はいは~い」
     それから手持ちのスマホで実際に確認してみたら、確かにメッセージは送られていた。そして入浴を終えて部屋に戻ったら「来週辺り考えてるってさー」なんて言ってきたりする。スマホは風呂にまで持ち込んでいるので盗み見られた可能性はない。やはり凪は新型機らしい。
     ただ機械らしいことといえばそのくらいで、普段はやはり変わらずだらだらしている。俺にも興味なんてないんだろうななんて千切は考えていたのだが、ある日母に家族写真を見せられたらしく、帰宅した途端に珍しく凪が質問してきた。
    「千切って、サッカーやってたの」
    「……まあな」
    「何でやめちゃったの」
    「話聞いてたんだろ? ほっとけよ」
    「ふーん、別にいいけど」
     たったそれだけの会話だった。面倒臭がりの凪がサッカーに興味でももったかと思ったけれどもそうでもないらしい。一週間もすれば、そんな会話をしたことすら忘れてしまっていた。
     
     転機はそれからしばらく経ってからだった。荷物持ちでもさせるかと、休日に嫌がる凪を無理やり家から連れ出して街に出た。買い物に付き合わせると時折ぶつぶつ「眠い」だの「帰りたい」だの文句を言っていたが、さすがに所有者を置いてどこかへ行ってしまうという行動はとらなかった。
    (見かけは)同年代の誰かと出かけるだなんて久々で、少し気分が晴れていく。元々リハビリがてら歩くようには言われていたので、普段行かない散歩コースに凪を連れ出す。青空の下をゆっくり歩くのは久々で、暖かな陽射しが心地よい。一方で荷物を持たされた上に河川敷なんて歩かされて「早く帰ろうよ」とぶつくさ着いてくる凪はまるで散歩を嫌がる大型犬みたいでなんだか可愛く思えてきた。
    「お嬢も笑うんだね」
    「は? 何だよその呼び名」
    「お嬢じゃん。好き勝手あちこち連れ回してさ」
     やはり凪は所有者に対する忠誠心などカケラもないらしい。ただその距離感が今の千切にとっては心地よかった。事故のようなもので所有者になってしまったが、だんだんと凪との生活が当たり前のようになっていた。凪にとって友達とはこんな感じなのだろう。
    「アレェ? 〝元〟天才くんだ。こんなところで優雅にお散歩ですかぁ~?」
     そんな空気をぶち破ったのは、オフでまで聞きたくない声だった。肩を落として振り返ると見知ったよく似た顔が二つ並んでいる。練習の帰りだろうか、その手にはサッカーボールが抱えられていた。
    「珍しいじゃん、オトモダチなんていたのかぁ? お兄に挨拶くらいしろよ」
    「ちわっす。じゃ、忙しいんで」
    「逃げんなよ、ボールも直視できなくなったのか?」
     ゲラゲラと二人分の笑い声が響く。挑発するようにポイとボールが投げられた。以前であれば抱えた状態であろうと脚で掬ってそのままゴールまで一直線に運べたそれは、まるでスローモーションのように千切の視界に映った。これを拾ったら。奴らが仕掛けてきたら、また右脚に負担がかかるんじゃないか。それがきっかけで右脚が完全に壊れて二度とサッカーができなくなるんじゃないか。そんな思いが一瞬で頭の中を駆け巡る。全く動けないままボールが千切の顔に当たろうとしたその直前。その視界を影が横切った。
    「ちょっと、危ないんだけど」
     たった今眼前にあったボールは、あっという間に凪の脚に掬われていた。しかもそれを取り落とすこともなくキープしている。凪は両手が荷物で塞がっているから脚を使ったのだろうが、サッカーの存在くらいは話を聞いたり写真を見たりして学習していたためか、ボールを扱う技術は実に見事で、綺麗で。ついその場にいた全員が目を奪われた。
    「お前……っ、何者だ!」
     鰐間弟の声に合わせるように兄の目がクワッと見開かれる。凪は問いかけには一切答えずボールをポンポンと脚で遊ばせた後、突如それを兄弟に向けて弾き飛ばした。一直線に返っていったボールは綺麗に鰐間弟の顔面にぶち当たった。
    「逃げるよ、お嬢」
    「えっ」
    「雨雲が近づいてる。降られるのも面倒でしょ」
     喚く兄弟を置き去りに凪が走り始める。ついその後をついて走ると風を切る感覚が頬を撫でた。つい止まってしまいそうになる脚は、遠ざかる凪の背を見失うものかと自然に前に出ていた。こんなに走ったのはいつぶりだろう。気がついたら自宅に到着していた。雨が降り出したのはその数分後だった。
     
     凪ともだいぶ打ち解けた気がし始めたその矢先、日本フットボール連合から一通の通知が届いた。
    『指定強化選手に選出されました』
     そう綴られた封書を見て戸惑った。凪は「そんなめんどくさいのやめときなよ」と言ったが、千切はどうにも決断できずにいた。もしかしたらこれを機にサッカーを諦められるんじゃないか。そんな気がして。
     次の転機は更に数日経ってからだった。凪と帰宅したら家にもう一体、新型機が鎮座していた。しかしそれはスマートフォンではなかった。新型のタブレットだ。これまた人気の新型機種である。
    「母さん、これ……」
    「ごめんね。凪くんのことご近所に話してたら、回り回ってお父さんのお仕事の伝手でね」
     話を聞くと、とある子供のいない富裕層が後継にと購入したオプション盛り盛りの機体なのだそうだ。名前は御影玲王。御影といえば確かに聞いたことがある。随分可愛がられたそうだが、性能を盛りすぎた結果相当に強い自我が芽生えてしまい、両親に何かと反発するようになってしまったのだそうだ。
    「それで手に余って、捨てスマホの面倒を見ているウチに話が来たと」
    「お嬢その呼び方やめてって言ってんじゃん」
    「お前だってお嬢って呼ぶのやめろよ」
     凪と言い合いながらも新顔を覗き込む。どこか拗ねたようにぶすくれてはいるが見目は相当に良い。肌や髪の質感も一目見ただけでは人間と間違えてしまうくらいリアルで、拘って作られたのだと十分に理解できた。
    「えーと、御影?」
    「その名字で呼ぶな。玲王でいい」
    「そ。じゃ、玲王。よろしく。こいつが凪、相棒になる奴だから仲良くな」
     ずいと凪を前に押しやれば、やさぐれていたような表情だった玲王の瞳が大きく瞬いた。おそらく自分と同列の品質の新型機と出会うのは初めてなのだろう。母から受け取った玲王の説明書にざっと目を通す。やはり凪と同様に〝進化〟のストッパーは外されている。もし凪とうまくやれれば、互いに無限の学びと進化を得ていくことになるかもしれない。
    「千切」
    「なに?」
    「初期設定。大まかなところはお前の母親にしてもらったけど所有者がお前なら関係性とか色々必要だろ」
     テキパキと物事をこなすあたりはやはり優秀で、いちいち面倒がらないところは凪とは大違いだ。
    「俺は千切の何だ?」
    「……友達」
    「了解。凪とは同期した方がいい、よな」
    「ん。同期ってどうするんだっけ」
    「それも所有者次第だ。完全なバックグラウンドですることもできるし、ユーザーによっては人間みたいに言葉で報告し合う形を選択する場合もある」
    「いいな、それにしよう」
     千切の返答に、凪も玲王も少し顔を嫌そうに顰めた。けれど互いに感情に似たものが生まれているのであれば、人間のように言葉を交わして交流した方が仲良くなれるのではと思った。
    「玲王ってさ」
    「ん?」
    「なんで両親と仲違いしたんだ?」
    「詳しくは言いたくない」
     ピシャリと言い切るあたりも原因の一つなのだろう、と千切はひっそりと考える。千切としてははっきり言ってくれた方がありがたくはあるのだが。
    「ただ、一つ言えるのは。欲しいもんができたってことかな」
    「へえ?」
    「でもそれは今のところ機械は絶対手に入れられない。だから無謀なこと言うなって散々否定されて、まあそれにキレたってのが決定的な原因」
    「……諦めてないんだ」
    「当たり前だろ。俺がルールを変えてやればいいんだ」
     宝石のような美しい瞳に野心が燃える。千切はその目を見て「あ、こいつのこと好きかも」と思うと同時に、今の自分との差を感じてつい目を逸らしてしまう。機械に入手できないということは人間になら入手できるということだ。千切にも欲しいものはあった。その前提が用意されているにも関わらず今は逃げに徹している。一方で前提からしてない玲王はここまで真っ直ぐ前を向いている。恵まれている環境を自ら捨てている状況に、どうにも罪悪感を覚えてしまう。
    「玲王の欲しいものって何か、聞いていい?」
    「ああ。これだ」
     肌身離さず持ち歩いているのだろうか。玲王が大切そうに取り出した手帳に挟まっていた写真には、見覚えのある場面が写し出されていた。
    「これって……」
     何年か前に見た、W杯の決勝。優勝チームの頭上に掲げられているのは眩く輝く勝者の証だった。
     
    「まさか千切もサッカーしてたとはな」
     サッカーという共通点が判明すると、玲王は態度を大きく和らげた。凪はといえば勝手にオンラインゲームを始めてしまっている。
    「けど、今は休止中なのか。せっかく俺もスポーツ特化型に改良してもらったのに勿体ないな」
    「ん……悪い、競い合えれば楽しかっただろうな」
    「事情が事情だ、仕方ねえよ」
    「あ、でも凪も結構凄かったぞ」
     千切の一言で玲王の表情がパッと明るくなった。余程競い合える仲間を求めていたのだろうか。
    「本当か!?」
    「ああ。すげートラップ見た。なあ、凪?」
    「別にー。疲れるからやだよ、俺」
     ベッドにごろごろと寝そべりながらゲームに勤しむ姿は本当に人間のようだ。そんな風に眺めていた千切の視界に特徴的な紫色が割り込んでくる。
    「凪! サッカーしようぜ!」
    「だからやだって」
    「千切、ちょっと凪とボール蹴ってきていいか?」
     玲王は興奮しながら凪をずるずると引きずり始めた。千切が押そうが引こうがびくともしない凪をである。まあ同じ機械だし玲王も俺よりでかいもんな、なんて考えつつ千切が許可を出すと、玲王は凪を背負ってあっという間に家を飛び出して行ってしまった。まるで嵐が過ぎ去った後のような静寂。取り残された千切はふとこんなに静かな自室は久々だ、と部屋を見渡す。ルームメイトがいないだけでもこんなにもの寂しくなるものなのかと実感した。
     
     玲王と凪が帰宅したのは、それから数時間後だった。
     いつまで経っても帰ってこないので所有者権限の呼び出し機能で強制的に帰宅させた。玄関を潜った玲王は実に満たされた表情をしていた。一方で長時間相手をさせられた凪は少し疲れたような表情を見せている。
    「千切、お腹すいたー」
    「珍しいな。いつも食事もめんどくさがるのに」
    「おっ、凪も食事機能ついてんの? 一緒に飯にしようぜ!」
     肩を抱いてずかずかと浴室へ向かう姿はすっかり親友だ。やや玲王が押し掛け女房になっている印象があるが、面倒臭がりの凪にはちょうどいいのかもしれない。何より仲良くなってくれて安心した。感情を持つ機械同士は相性が悪いと同時持ちが難しくなるためだ。
    「玲王、風呂と飯終わったら部屋来いよ」
    「ん、何でだよ」
    「飛行機予約したいから。二人も連れてく」
     謎の召集に二人を巻き込もうとどうして考えたのかは千切自身もわからなかった。けれど、二人を見て機械の未来を信じてみたくなった。もし自分が脱落しても、二人はどんどん前に進んで、場合によっては自分の手を離れていくかもしれない。それでも二人の背中を見ているうちに、その行末を見守るのもいいかもしれないと考えてしまった。
     
    「ダメに決まっているだろう」
     東京に移り、ブルーロック計画を明らかにされた会場で。当然ながら千切は凪と玲王の持ち込みを絵心に断られていた。既に他のメンバーは扉を潜った後だった。慌てたように駆け寄ってきたアンリがやんわりと間に入ってくる。
    「ま、まあ……機械は一旦こちらで預かるという形では」
    「阿呆か。大体機械はW杯の出場権すらない。そんな存在はウチに必要ない。ロックオフだ」
     相当に厳しい人物だとは思ったが、と千切は頭を悩ませる。悔しそうに拳を握りしめる玲王の横で凪は「早く帰ろうよ」だなんて言い始めているが。ただ、千切は今の自分よりもこの計画に参加すべきは二人だと確信していた。引き下がるわけにはいかない。
    「ブルーロック計画は、最高のストライカーただ一人を養成するもの、でしたよね」
    「ああ」
    「なら、この二人は他の選手を刺激する特異点になれます」
    「自身の能力を引き出すのは己自身だ。機械に頼る必要はない」
     ぐっと言葉に詰まってしまうが、ここで引いてしまっては終わりだ。機械である二人には発言権すら得られていない。玲王であればもっともらしい交渉をできたのかもしれないが。
    「……今回のプログラムには、一切機械を使いませんか」
    「…………」
    「見ての通り、凪も玲王も自己申告しない限りは完全な人間と変わりません。食事もするし感情もある。夜中に隠れて充電さえできれば、二人が機械であることすら誰も気づかないでしょう」
     懸命な主張を続ける千切の目を絵心はじっと見つめていた。しばらくの沈黙の後、彼はアンリを呼びつけると何やら耳打ちをした。一度奥へ引っ込んだアンリがしばらくして戻ってくると、ほっとしたように三人の前へ立つ。
    「調整ができました。特例ですが、まずはプロジェクトに参加することだけを認めます」
     ほっと胸を撫で下ろした千切や玲王を諌めるように、すぐに絵心が口を挟んだ。
    「とりあえず第一選考だけだ、様子を見る。ただし勝ち残ったところで機械のW杯代表権は得られないと思え。それと機械と人間、お前らは別々だ。機械の方は一旦所有者との記録を抹消する。お前らの現段階の記録からこの計画に参加するそれらしい記録を作り出し入れ替えておく。人間の記憶は消せないから千切豹馬、お前は奴らを知らない前提で動け。何かの形で他の者に怪しまれた時点で全員失格にする」
     厳しい物言いに背筋が伸びる。それでも可能性を繋げたことに千切は安堵した。もしこれきり二人が手元を離れようとも、元々正規の手段で手にしたわけではない二人だ。千切には何の権利もない。
    「ありがとうございます。じゃ、凪、玲王。俺先行くから」
    「ああ。……千切」
    「ん?」
    「……また会おうな」
     玲王の言葉に頷くと、面倒面倒と繰り返す凪の頭をくしゃりと撫でて背を向ける。扉を潜る直前に、千切は二人に声をかけた。
    「二人が一緒ならきっと大丈夫だから。玲王、凪をよろしく」
     おう、とはっきりした声を聞き届けると千切は歩みを進めた。悔いはない。きっと自分が指定選手に選ばれたのは、ここに来たのは。きっとこの二人を送り出すためだったのだと、そう己に言い聞かせて。
     
     一人の人間と二人の機械は、ブルーロックでの経験であらゆる考えが大きく変化した。成長した三人が再び同時に見えたのは第二次選考後。イングランドのチームで合流したときだった。
     大きく成長した機械たちに千切は希望を覚えながら、かつては抱かなかった闘争心を胸に宿していた。
     これは厳しい競争の末に青い監獄を出てプロの選手としての日常を迎えることになった、一人の人間と二人の機械のお話である。
     
    「何もイングランドでも一緒に住まなくていいだろ? お前らもう自立してるし、恋仲だし。俺絶対お邪魔虫じゃん」
    「お嬢が心配ー。きんにくんと同棲したら考えてもいいよ」
    「どっ……!? だ、大体あいつはドイツだし」
    「お嬢って案外國神には慎重なところあるもんな。俺が『会いたい』ってメッセ送っといてやるよ」
    「ばっ、やめろ玲王!」
    「もう送っちまったよ。あ、返事きたぜ。明日来るってさ」
    「きんにくんフットワーク軽いね~」
    「あ、明日!? 玲王、いつもの美容院予約っ!」
    「はいはい。こりゃまだまだ俺たち巣立てねーな」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    sakura_grbr

    DOODLEタイトルの通り、悪魔×天使パロ。書きたいところだけ。少々ngro要素もあるので注意。
    【くにちぎ/kncg】悪魔kn×天使cg世界には天界と魔界、そして人間界がある。基本的には互いに干渉し合わないが、長年天界と魔界は小さな衝突を繰り返し、互いの同胞を増やすべく天使は悪魔を浄化し悪魔は天使を堕天させていた。そして浄化された悪魔は魔界から疎まれ、堕天した天使は天界から弾かれる。浄化した天使や堕天させた悪魔が対象を殊に気に入ればそれぞれの世界に連れ帰ることもあるものの、出自が異なればどうしても居心地は悪い。天界や魔界に馴染めない彼らはそれぞれの象徴たる羽を剥奪されて人間界へと堕とされる。人間となれば短い寿命に縛られて消える運命だ。だからこそ天使と悪魔は互いの存在を警戒し合っていた。
    ただし、浄化や堕天をしていない天使や悪魔が人間界に存在しないかと言えば答えは否である。人間は欲深い。その欲を糧とするのもまた悪魔である。悪魔に憑かれた人間はただでさえ短い寿命を吸われて早々に死に至る。そして死してなお魂が天に還ることはない。悪魔に喰われて消滅し悪魔の一部となり魔界の力を強めることになる。その均衡の歪みを正すべく、一定数の天使もまた人間に扮して悪魔の動向を伺うのである。
    11046

    recommended works