青薔薇の庭青年は不死の生き物だった。
それを不服と思ったことは無いし、困ったことも無かった。
同じ場所に定住出来ないとはいえ、趣味の読書のために新たな本を探しに旅立ってしまう為、やはり何一つ不自由せず過ごせてしまう。
ある時、青年は死にかけの子供を拾った。なんの気なしに世話をして育て、気付けば死ぬのを見送った。子供を育てる手前定住したが、移動するのも億劫に感じそのまましばらくそこにいた。ある時、養い児の生まれ変わりだという少年が自分を訪ねてきた。
また一緒にいたい言う彼をそばに置きまた次の生も見送った。
さてまた彼は来るだろうかと、見送った土地でしばし居を構えて待てば、やはりまた彼はやってくる。
「君は変わってますね」
言えば「俺はお前のものだからな」とひねくれた返事。
誰がこう育てたんだろう、なんて軽口を交わして時を過ごす。
そうして5回目の死の間際青年は養い児にこう漏らす
「どうやら君を好きになってしまったみたいです」
老いた瞳を見開いた彼はふうと吐息をついて言った「ようやくか」そうして息を引き取った彼を見送り、今か今かと彼の来訪を待つ。
6度目の再会を果たした彼は「後何年待てば良い」と頭を抱えていたが意味がわからなかった。
その意味を教えられたのは彼の身体が大人の兆しを示した頃だった。
事が済んで明けた朝、横に寝転ぶ幼い彼に「まだ早かったのでは」と聞けば「これ以上待てるか」と、その若さを思い知らされた。
蜜月のような生も青年にとっては瞬く間に過ぎる。
「もうですか?」
「また来る」
そう言って、息を引き取る彼に初めて身を割かれるような痛みを感じた。
だから青年は次の彼の訪れをその場で待たずに逃げ出した。
遠く離れた場所で、いつもの再会時より育った彼にキツく抱き締められたのは20年後。
そこからの数十年は離さないと思い知らされる時間だった。
そうしてまた別れの時がやってきた。
「もう君を見送るのはごめんです」
「わかった」
そう頷いて息を引き取った彼の真意はわからないまま、離さないと教え込まれた身はどこにも行けず、しかし次の彼は訪れる事なく、時は過ぎ
「今年も来ないなら自分も逝こう」
そう結論付けた頃、青年の前に一人の男が立った。
「ようやく手に入れた」
何を?聞く前に懐かしい気配に包まれる。
「今回はずいぶん時間がかかりましたね」声色に滲む批難の色に謝罪するように抱く腕の力を強くして彼は言った
「もう置いていかない」
「え?」
「お前と同じものになった」
なんで、どうして、どうやって
あらゆる感情と疑問と、そして安堵と
溢れる感情が目の端に溜まる。
「ずっと一緒だ」
聞いた瞬間、前回の養い児との別れの時ですら落ちなかった涙が落ちた。
「本当に」
「ああ」
「嘘をついたら殺しますよ」
「不死だろうが」
「いいえ。方法は知ってますから」
そうして青年の決意を知った男は間に合った安堵にまた青年をきつく抱きしめるのだった。