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    hitoyo142_13

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    hitoyo142_13

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    頼蒲九兄弟がお昼ご飯食べるだけ🧄 ※カプ要素はほぼなし

    「……これは?」
    目の前には顔を真っ赤にした上の弟と、てきぱきと皿やフォークを並べていく下の弟。皿の上には出来立てのパスタが、真っ白な湯気を立てている。

    事の起こりは三十分ほど前に遡る。
    珍しく仕事も外出の予定もない日曜日。今日はもう一日家の中で過ごそうと決め、ソファで新聞を読んでいると九郎がぽつりと訊ねてきた。
    「昼飯どうしましょうか」
    つられるように壁掛け時計に目をやると、そろそろ昼前だ。今日は家には自分と九郎、それから範頼の三人。常ならば人数が多い日は外食をすることがほとんどなのだが、こう暑いと家を出るのも億劫だ。頼朝はやや思案すると、こう見えて料理の得意な下の弟に「なんでもいいから作ってくれるか」と頼むと、彼はキッチンへと向かうと冷蔵庫や戸棚の中を確かめ始めた。
    「うーん、でも食材ほとんど残ってないんですよね。パスタくらいか…………ああ、じゃあ今日は蒲の兄上のお好きなあれにしましょうか」
    九郎の呟きに、ダイニングテーブルで本を読んでいた範頼がぱっと顔をあげる。何だろう、楽しみだなあと明るく笑って「何か手伝おうか?」と立ち上がった。
    「いえ、すぐできるので大丈夫ですよ。あっちで待っててください」
    そうか?と少し申し訳なさそうに言いながら、範頼が頼朝のいるリビングへとやってくる。
    ザー、とパスタ鍋を水で満たす音、トントントン、と野菜を包丁で刻む音、コンロにフライパンを乗せ、火にかける音。手際のよさが伝わってくる音に何となしに聞き入っていると、ふわり、とにんにくの食欲をそそる香りが鼻をくすぐった。空腹感を刺激する匂いに期待を膨らませていると、次第にその匂いが濃く、強くなっていく。
    「……ん?」
    キッチンから漂うにんにくの香りは止まるところを知らず、間続きのダイニング、そして頼朝たちのいるリビングへと押し寄せてくる。もはやふわり、なんて生易しい表現は似つかわしくない。換気扇でも吐き出しきれないにんにくの匂いは、ぶわりと質量を感じるほどの密度で頼朝たちを包み込む。
    「く、九郎!?私の好きな料理って、まさか……!」
    隣にいた範頼が慌てだした。赤くなったり青くなったりしながらキッチンへと向かっていくが、等の九郎は涼しい顔で調理を続けている。催促だと思ったのか、「もうすぐできますから」と返す余裕ぶりだ。

    何事だ、と思いつつも頭に入らない新聞を眺めながら待つこと数分、「できましたよ」という下の弟の声にダイニングへと向かい、冒頭へと戻る。

    ダイニングの椅子に座った頼朝の前に置かれたパスタはシンプルな見た目で、太めの麺にオイルと、刻まれた白っぽいものがたっぷりと絡まっている。どれくらいたっぷりかと言えば、これ全部にんにく?本当に?と問いかけてしまいたくなるほどだ。嗅覚が慣れたのか麻痺したのか、目の前まで来るとそこまで強烈な匂いには感じなくなっていて、それがまた恐ろしい。
    「好物だ」と明かされたのがよほど恥ずかしいのか、斜め向かいに座った範頼は、顔を真っ赤にして俯いている。
    「……いただきます」
    とはいえ、頼んで作ってもらったものに文句をつける訳にもいくまい。手を合わせてフォークを取ると、ふとテーブルに並べられた皿のうち、ひとつだけ明らかに量が少ないことに気付いた。はて、と思っていると、その皿ーー範頼の前に置かれているーーの横に、九郎がバゲットを載せた小皿を置いた。
    「それは?」
    「蒲の兄上、皿に残ったにんにくをパンに乗せて食べるのがお気に入りなんですよ」

    「ね、兄上」と笑いかけられた範頼は、とうとう首まで赤くして小さく震え出してしまった。俯いて見えないが、もしや泣いているのではなかろうか。
    「……これが好きなのか?」
    驚きはしたが、元より好みを否定をするつもりはない。なるべく威圧的に聞こえないよう意識しながら訊ねると、蚊の鳴くような声で返事が返ってきた。
    「……はい、その……………前に、九郎が作ってくれまして………それ以来、気に入ってしまって」
    「一時期、昼飯のたびにこれリクエストしてましたもんね」
    「く、九郎!」

    フォークでパスタを巻き取る。
    口に入れると、わずかに芯の残った太めの麺に、これでもかと絡みついたにんにくの力強い匂いが脳に直撃する。これは今日一日誰とも会えないな、と本能で感じる味だ。けれども少し焦がしたにんにくの香ばしさと強めに効いた塩味がアクセントになって、シンプルながらひと口、もうひと口と食べたくなる。
    上品さからは程遠いジャンクな味だが、だからこそ、癖になるのも納得な気がする。
    「…うまいな」
    頼朝が呟くと、範頼がぱっ、と顔を上げた。よかった、お気に召しましたか、とほっとした顔で胸を撫で下ろす。

    頼朝といる時の範頼は、折り目正しく、真面目で上品な男だった。控えめで兄を立て、下の弟の面倒をよく見る弟。だからだろうか、食事もきっと上品な淡い味付けを好むのだろうと勝手なイメージを持っていた。けれど、それは思い返してみれば、自分の食の好みではなかったか。
    「……わしは、お前のことをなにも知らないのだな」
    ぽろり、とこぼれた言葉は小さく、範頼は「何か言いましたか?」と首を傾げた。
    「いや、そのバゲットも試してみたいと言ったのだが」
    「あ……はい!どうぞ!!」
    さ、とバゲットの皿をこちらに寄越す範頼と、さっさと食べ始めながら「早く食べないと冷めますよ」と告げる九郎。
    頼朝は負けじとパスタを大きく巻き取り、口に運んだ。
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