「…あんたさ、おいしそうに食べるよね。」
ざわざわといろんな音が聞こえる食堂。そこにある席の一角、僕の真向かいに座る友達…カトラリーはそう呟いた。
「少食な方だと思ってた。胃袋は大きいんだね。」
「そう、かな…」
僕は食べる手を止めた。確かに、そろそろ食べ終わりそうな僕に、まだ半分残っているカトラリーがそう言うのも納得できる。腐りかけてたパンを食べていた僕にとっては今日の朝ごはんのロールパンはとてもおいしい。ついついいっぱい食べてしまう。
でもそのロールパンも最後の一つだ。名残惜しそうに口に運んでいると、何故かカトラリーが眉を顰めた。
「あ、それはダメ。許さない。」
カトラリーは食べかけのロールパンを指さした。何がダメなのかよくわからなくて、僕は首を傾げる。
「パンにかぶりつくのは行儀悪い。」
「え、す、すみません……」
たしかに、目の前にいるカトラリーも、この前一緒に食べたシャルル兄さんも丁寧に手でちぎって食べていた。
マナーなんて気にしたことがなかった。アメリカでまともな食事をした最後の数日間、空腹のあまり我を忘れて食べていたことを思い出す。あの時はフォークもろくに使えずに、みんなが教えてくれたっけ。今ではフォークもスプーンもナイフも使えるようになった。箸はまだ無理だけど。
マナーは食器類を正しく使うことだけでないのか。僕はまだまだ無知なんだ。
「ええと、怒ってるわけじゃないから。…僕、食器の仕込み銃だからさ、少し食事作法とかが気になるだけ。マナーなら僕が教えるよ。」
カトラリーは眉を下げてそう提案してくれた。思いがけないそれに僕は嬉しくなって勢いよく返事をした。
「…ほんとに?いいの?」
「嫌ならいいけど。」
餌は自分で探せ。
そんなことを言われてたあの日が嘘みたいだ。美味しいご飯があって、それを一緒に食べてくれる人ができた。食事のマナーなんて関係ない、ゴミの中の残飯を貪っていた僕に食事のマナーを教えてくれる友達ができた。
「ううん、うれしい。ありがとう…」
「この僕が教えるんだからありがたく思いなよ。厳しくするからね。」
「うん。よろしくお願いします…!」
僕なんかができるの、という言葉は飲み込んだ。だってこんなに頼もしい友達がいるんだから。きっとできる。
きちんとマナーを覚えて、いつかシャルル兄さんやケンタッキー、ペンシルヴァニアさん、そしてマスターを驚かせたいな。
「そう、そんな感じ。なんだ、やればできるじゃん」
そう言ってにこりと笑うカトラリーに僕も嬉しくなる。心の奥がじんわりと暖かくなる。最後のパンは、今までに食べたパンのどれよりもおいしく感じた。