「桜、お醤油取って」
姉さんの声が聞こえると、キッチンに立つわたしはすぐに彼女のいるテーブルへと振り向いて、彼女の望むものを差し出すことに成功した。迅速な対応は人を少しだけ優しい気持ちにさせるという経験則がそうさせたのだけれど、姉さんは瞠目しながら礼を言った。
「ありがと。びっくりするぐらい速かったわね」
「いいえ、速いというより、きっと姉さん、もうすぐお醤油を欲しがるんじゃないかって思ってたからです」
「じゃあ、今か今かと待ち構えていたってわけ?」
「はい、要はタイミングです。段々、わたしにも姉さんのことわかってきたんです」
「そう、よくわかるのね」
話しながらエプロンを脱いで、畳んで置いた。テーブルを挟んで姉さんと差し向かいに座る。箸を割るとともにわたしはにこりと微笑んだ。
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