泊まり勤務終わり。家に帰り着くや否や、重いコートを脱いでシワにならないようハンガーにかける。ソファに座り日々の激務で軋んだ身体の節々を労わっている時。ノボリは、自らの太ももに頭を乗せて横になるクダリの髪を撫でるのが日課になっていた。
絹のように柔らかな手触りでありながらも、少しだけ硬い毛質のそれは、ずっと触っていたいと思えるほどノボリの心を掴んで離さなかった。指先に数本絡ませたり、毛束を摘んで毛先同士を擦り合わせたり。様々な手法で猫可愛がりする兄をしょうがないな、と言いたげな顔で見つめるクダリ。
本当は自分だって、ノボリのことを砂糖がとろけるように甘やかしたい。が、兄属性の気質が強い片割れの牙城を崩すには、少々強引でなければならないのをクダリは知っていた。
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