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    kk_69848

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    付き合ってない蔵種とモブ(中1)

    付き合ってない蔵種とモブ(中1)次の週末は雨だった。
    俺はそもそも、植物園になんて行きたくなかったから、いい口実が出来てかえってラッキーだった。白星は、雨の植物園もいい雰囲気だとか、食い下がっていたけど。さすがに面倒だから諦めてもらった。
    待ち合わせ場所は駅の構内の、適当なオブジェの前にした。約束の時間の15分前に、もう到着したと、白星から連絡が来た。俺は5分前に到着するつもりだったから、少し待たせることになる。
    駅に着いたらオブジェから少し離れた場所で、白星の姿を探した。会う前にどんな相手かを観察するのは、マチアプの鉄則だ。
    「……っ」
    居た。色素の薄い髪に、あの高身長。そわそわしながら、オブジェの前に立っている。こっちからは後ろ姿しか見えないが、目印にと、デカい耳を持っている(何でデカい耳を目印にしているのかは、全く分からない)。間違いない、白星だ。
    俺はスマホのカメラを向けながら、さっと白星の横を通り過ぎた。修二に写真を送る為だ。通り過ぎたら白星の死角に入って、写真を確認する。カメラがいいのか、適当に撮った割にはしっかりと、白星の顔が写っていた。それにしても─
    「めちゃくちゃイケメンじゃん……」
    普通はアプリには、特に写りのいい写真を載せるものだ。でも白星の場合は、写りの悪い写真を選んで載せたとしか思えない。
    全体的に薄い色素に、あの体格にこの顔。ヤバい。絶対にヤりたい。
    俺は「めちゃくちゃイケメンじゃね?」のコメントと共に、白星の写真を送った。すると即座に、修二から電話が掛かってきた。
    「よぉ、修二」
    「……」
    「見た? 芸能人かと思った。あんなにイケメンでも、マチアプとかやったりするんだな」
    「あのな、一生のお願いなんやけど」
    「はぁ?」
    俺は思わず吹き出した。一生のお願いとか、小学生か。
    「ほんまにお願いなんやって」
    「何だよ?」
    「そいつには手ぇ、出さんといてほしい」
    「おいおい。あんなイケメン、目の前にして?」
    「ほんでな、アプリ使うのも止めろって、説得してほしい」
    そんなことは他人に干渉されるようなことじゃないし、どうしても説得したいのならば、自分ですればいい。
    まぁそれが出来ないから、一生のお願いなんだろうけど。
    「それってさ、俺にメリットある?」
    「ある」
    「ねぇじゃん」
    「上手く説得してくれたら、何でも言う事聞くわ」
    「え、何でも?」
    「何でも。合コンでも乱交パーティーでも、何でもセッティングしたるし。俺の身体も、好きにしてくれてええ」
    「……へぇ、何でもかぁ」
    俺は「努力する」と言って電話を切った。ヤバい、運が向いてきた。ヘマさえしなけりゃ、修二のツテも身体も、全部使い放題だ。上手くやれば、白星とだってヤれるはず。俺の今までの人生って、今日の為にあったのかも。
    俺は有頂天になりながら、白星に声を掛けた。

    待ち合わせ場所のすぐ近くに、馴染みの喫茶店があった。奥の座席は、背丈の高い観葉植物の陰になっていて、周りからは見えにくい。俺はこの席が好きだ。
    タイミングよく空いていたそのテーブルの、奥のソファ席に白星を座らせる。メニューを渡して、「好きなの選んで」と言う。今日は全部、俺の奢りだ。
    白星は遠慮してか、ただのアメリカンを選んだ。お冷を運んで来た店員に、アメリカンを2杯注文する。店員が去れば、楽しい時間の始まりだ。
    「コーヒーだけでいいの? 他に食べたいものあったら、何でも注文して」
    「あー……、はい」
    「何? 緊張してる?」
    「はい……」
    ほんとにフランス人みたいに白い肌が(とは言え、実際にフランス人を見たことはない)、ほんのりと赤らんでいて、まるで金持ちの持ってる人形みたいだ(金持ちの持ってる人形も、実物を見たことはない)。
    「こういうの、初めてだもんね」
    「えっ、分かります?」
    「慣れてる奴は、わざわざ目印になるような目立つ物とか、持ったりしないから」
    「あー……、なるほど」
    白星は手のひらをくるくると回すと、鞄の中からデカい耳をパッと取り出した。こんな所で出さなくていい。
    「あの場所でさ、俺達の他に5組くらい、アプリで待ち合わせしてたの分かった? 誰もそんなん持ってなかったでしょ」
    「えー、5組も? 全然気付きませんでしたわ」
    5組ってのはブラフだけれど、まぁ実際、それくらいは居るだろう。
    「オブジェの前って、大抵そんな感じだから」
    「それって、どうやって見分けるんですか?」
    「みんな緊張してるから、バレバレよ」
    「でも慣れてる人やったら、緊張なんてしとらんでしょう?」
    「慣れてる奴は、待ち合わせ場所で待ったりしねぇから。少し離れた場所から観察して、気に入らなかったらドタキャンよ」
    「えー、ひどっ」
    白星がおしぼりのビニール袋に指を立てた。袋からぷすっと、穴の空く音がする。
    「ほな○○さんも俺のこと、観察しとったんですか?」
    白星のイタズラっぽい目が、俺を射抜く。たまんねぇな、こいつ。腰の辺りが、ゾクゾクと痺れた。
    「ははっ、バレたか」
    「ほな俺は、合格ってことですね」
    「お前を不合格にする奴なんて、いねぇよ」
    「失礼します。こちらアメリカンになります」
    横から急に、店員がコーヒーカップを差し出してきた。折角口説きモードに入ってたってのに、無粋な店員だ。まぁいい、時間はたっぷりとある。
    俺達はコーヒーをすすりながら、軽く自己紹介をし合った。まぁ俺のプロフィールなんて、半分以上が嘘なんだけれど。
    そうしてある程度打ち解け合ってから、俺達は店を出た。普段だったらホテルに直行したい所だが、今日は特別待遇だ。
    「疲れてない? これで解散してもいいんだけどさ。嫌じゃなかったら、この後も付き合ってほしい」
    「えーっと。どこか行きたい所とか、あるんですか?」
    「水族館に行かねぇ?」
    俺は、水族館なら結構好きだ。冷暖房完備だし、薄暗いし。値段が高いのだけが、玉にキズだが。
    「ええですね。デートみたいや」
    「えーっ、デートじゃねぇの?」
    「えっあ、はい」
    白星が困ったように笑うから、俺は必死に理性で己を抑え付けた。
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