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    付き合ってない蔵種とモブ(中2)
    次で終わります
    ※モブと手を繋ぐシーンがあります※

    付き合ってない蔵種とモブ(中2)水族館に到着すると、白星が自分の入館料は自分で払うと言い出した。正直出してもらえるなら助かるから、自分で払ってもらった。白星、いい奴だ。
    館内ではまず、水槽のトンネルをくぐってから、最上階へと向かう。ここに来るのは久し振りだったけど、やっぱりトンネルはテンションが上がる。白星も楽しそうだ。
    俺は刺し身が好きだから(焼き魚とかは、骨が嫌いだ)、魚を見るのは結構楽しい。でも白星と一緒に居ると、魚じゃなくてこっちをチラチラと見てくる奴が、たまに居る。まぁこんな美形が歩いているんだから、二度見したくなる気持ちは分からんでもない。
    「にしても、俺の顔までジロジロ見ることはねぇだろ」
    「はい?」
    何度目かの、不躾な視線の後。愚痴る俺をよそに、平然とした顔の白星。きっと白星は、こんな視線には慣れているんだろう。
    「白星くんさ、何でアプリ始めたの?」
    「え」
    「リアルでの出会いとか、いくらでもあるでしょ」
    「うーん……。何でやと思います?」
    「そうだなぁ。小遣い目当て、とか?」
    「○○さん、お金持っとるんですか?」
    「……無い」
    俺に金は、無い。そもそもあのアプリに、年収欄は無い。小遣い目当てだったら、もっと別のアプリを使うだろう。そんなこと分かってはいたけれど、他に理由が思い浮かばない。
    「ゲイバーとかは、行くのが怖いから?」
    「それは少しあります」
    「うーん。じゃあそれプラス、理想が高いとか?」
    「え?」
    「……違うな。人には言えないプレイがしたい、これだろ?」
    「何ですかそれ」
    白星が苦笑した。
    あぁ、しまった。いきなり下ネタはまずかったか。それにしても、アプリを使う理由なんてそれくらいだろうに。もう俺には、何も思い浮かばなかった。
    「降参。教えて?」
    「当てたら教えます」
    「はぁ?」
    それって、当たらなかったら教えないってことで。一生、教える気ねぇ訳じゃん。意外と面倒くさい奴だ。でも俺も正直、そこまで知りたい訳でもない。
    「じゃあさ、次の質問。何で俺を選んでくれたの?」
    「えーっと……」
    「タイプだった?」
    「……まぁ、雰囲気良さそうな人やなとは、思いました」
    「へぇ、ほんと?」
    「すんません。ほんまはめっちゃぎょーさんメッセージが届いて、返信するだけで大変やったんで。あんまりこう、じっくり選ぶとかは……」
    「ははっ、正直者だな」
    「すんません」
    「全員に返信してんの? そんなん適当に無視すればいいのに」
    「そんな訳にも、いかんやないですか」
    力なく笑ってから、白星は続けた。
    「や、でもホンマに返信が大変で。一旦アプリ止めよかなって、思ってるんですけど」
    ……何だ。俺が工作をしなくても、勝手にアプリを止めそうじゃないか。
    「それって俺と出会えたから、他の男は要らないってこと?」
    「……あー、まぁ」
    「そこは即答してよ」
    「すんません、正直者なんで」
    白星が笑った。最初に見た顔とは違う、自信に満ちた、いい顔だった。
    でも俺は、嬉しいような寂しいような、何ともいえない複雑な気持ちになった。どうしてかは、分からない。けれどその気持ちが白星に、悟られることがないように。俺はテンションを上げて、次のコーナーへと向かった。
    館内は、俺がしばらく来ていない間に、色々と改装されていたみたいだった。いや、されているのかもしれないし、されていないのかもしれなかった。本当に久し振りだったから、以前がどうだったのか、よく覚えていなかった。あれ、俺って結局、水族館なんて好きじゃなかったのかも。
    当たり前だけど館内には、デカい魚や小さい魚、魚じゃないやつとかが沢山居た。それらを見ながら、どんどん下の階へと下がっていく。そうしていよいよ出口が近くなった時に、クラゲのコーナーに到着した。宇宙みたいな暗い空間に、いくつものクラゲが浮かんでいる。間違いない、このコーナーに来るのは初めてだ。
    「すげー、きれー」
    「……」
    「ほんとに宇宙みたいじゃねぇ? 宇宙、見たことねぇけど」
    「あはは」
    白星が笑って、そして言った。
    「ほんまに綺麗や」
    俺は横に居た白星の顔を、そっと眺めた。白星の白い肌が、わずかな照明にぼんやりと照らされている。綺麗だ。
    だけど俺は何故だか、初めて付き合った彼女のことを思い出していた。あの彼女は、白星みたいには美形ではなかったし。あの頃にはこの、クラゲのコーナーも無かったというのに。何故だか隣に居るのが白星ではなくて、あの頃の彼女のような気がした。
    「あ、分かった」
    「はい?」
    「白星が、マチアプ始めた理由」
    「あぁ。何でした?」
    「誰かに振られたろ」
    一瞬、白星の目が丸くなって。それでまた元の、美しい切れ長の目に戻った。
    「正解、です」
    「あー。ノンケに恋しちゃった?」
    「まぁ、そんなところです」
    水槽の中のクラゲ達は、気楽そうにふよふよと泳いでいた。天井からぶら下がった無数の電球の光が、水槽に落ちて。光もクラゲも、全部が星みたいにきらめいて見える。
    「あの人が、俺の世界を広げてくれたんです」
    白星が、独り言みたいにつぶやいた。
    「なのに俺が、あの人に固執して閉じ籠っとったら……、申し訳が立たんやないですか」
    「なるほど」
    「はい」
    「わりぃ、全然分かんねぇ」
    「はは、ですよね」
    白星の声に、被さるように。何人かの客が楽しそうに笑い合いながら、俺達の横を通り過ぎていった。そしてまた、館内が静かになる。
    暗がりってのは不思議だ。いつもよりも他人が、遠くに感じられる。
    「白星」
    「はい」
    「手さ、繋いでもいい?」
    「……ええですよ」
    俺達は暗がりの中で、少しだけ手を繋いだ。白星の手は思ったよりもゴツくてマメだらけで、結構驚いたけれど。これが白星の手なんだなって、俺は素直に思った。
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