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    kk_69848

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    蔵種とモブ男くん。
    1年後設定

    モブ山モブ男俺の名前はモブ山モブ男。中学3年生。
    今年からようやく、U-17代表合宿に参加することが出来た。同い年の切原や財前は去年から参加しているから、少し出遅れてしまったけれど。これからいくらでも巻き返してやる。俺には目標が二つあるんだ。一つは、日本代表に選ばれること。そしてもう一つは─
    「あれ、モブ山じゃん。こんな所で何やってんの?」
    「あっ、切原」
    「サボり?」
    「違うっ。サボってるのはお前だろ」
    「サボりじゃねぇよ、パシられてんの。ったく、せっかく3年生になったってのに、ここじゃ後輩に逆戻りだぜ」
    「あぁ、立海の」
    「あーあ。めんどくせぇ先輩ばっか」
    この合宿に参加しているメンバーは、大半が高校生だ。俺達中学生からしたら、やや窮屈ではある。けれど─
    「でも、優しい先輩も居るんじゃない?」
    「優しい先輩?」
    「ほらさ、例えば……白石、先輩とか」
    白石先輩は、俺の憧れだ。
    前々から中学の大会で知っていて、すごいイケメンが居るなとは思っていた。いつも遠山金太郎の世話をしているイメージで、大変そうだなって、他人事みたいに思っていたけれど。
    この合宿で初めて関わって、結構─いや、かなり好きになってしまった。すごく優しいし、かといって甘やかす訳でもない。ちゃんと芯のある人で、広い視野で相手のことを考えて接してくれる。勿論、テニスだってめちゃくちゃ強い。
    実は俺の二つ目の目標も、白石先輩とダブルスを組むことだったりする。
    「あー、白石さんね」
    切原はダルそうに答えた。こいつは以前、白石先輩とダブルスを組んだことがあるらしい。羨ましい奴だ。
    「でもあの人ってさ、ちょっと変じゃね?」
    「は?」
    白石先輩が、変? あんなに強くて優しくて、世界で一番かっこいい人なのに。変? 白石先輩が?
    「変って、何処が?」
    「やー、変っしょ。ギャグもつまんねーし」
    「は? じゃあ切原は、白石先輩より面白いギャグが言えるのかよ」
    「え、何でキレてんの」
    切原は焦りながらも、人を呼びに行く途中だからと行ってしまった。残された俺はイライラして、急に腹が痛くなる。そうだ俺、トイレに向かう途中なんだった。
    「うぅ、トイレ…」
    よろよろとトイレに向かう。しかし3個ある個室のうち2個は故障中で、残りの1個も使用中だった。
    「そんなぁ」
    中からはゴソゴソと音がする。まだまだ使用中だろうか。しかし今から別のトイレに移動するとなると、限界を越えてしまうかもしれない。
    俺は使用中のトイレをコンコンッとノックした。
    「あの、すみません」
    「……」
    中から聞こえていた音が、ぴたりと止んだ。
    「あとどれくらいかかります? 俺、結構限界で…」
    「……あー、すまんすまん」
    個室からは聞き慣れない、少し高めの声が返ってきた。
    「今から出るから、ちょおトイレの外で待っとってくれへん?」
    「え? 外で?」
    「今なぁ、めっちゃ臭いうんこしてもうたんやって」
    「え、あ、はぁ」
    俺は言われるがままに、よろよろとトイレの入り口の外まで行くと、人が出て来るのを待った。すると直ぐに人が出て来た。背の高い男で、肌は黒く髪は銀髪だ。
    「お待たせ☆ 入ってええで」
    「あっ」
    「ほな、また後でなぁ」
    男はさっさと行ってしまった。あの人のことは知っている。多分、去年の高校生日本代表の人だ。
    そういえば黒部コーチが言っていた。今日はOBが指導に来てくれるって。切原が探していたのも、多分あの人なんだろう。
    「…ったた」
    腹痛に襲われ、俺は再びトイレに入る。すると、洗面台で手を洗っている白石先輩と目が合った。
    「……え?」
    「ん? あー、お疲れさん」
    「え、あれ、え?」
    さっきまでトイレには誰も居なくて、個室から出て来たのはさっきの人で。そうなると白石先輩は、一体何処から現れたんだ? 俺は周りを見回したけれど、やっぱりここのトイレには、出入り口は一つしかなかった。
    「あの、白石先輩」
    「うん?」
    「いつからここに居ました?」
    「さっきからやけど?」
    「さっき?」
    「おん」
    「じゃあ、今ここから出てった人、見ました?」
    「さぁ。見てへんわ」
    「えぇ?」
    訳が分からない。混乱する俺に、白石先輩が一歩近付いた。
    「俺が何処におったか、疑問なんやろ」
    「そう、ですけど」
    白石先輩がきりっとした顔で俺を見詰めるから、俺はどぎまぎして目を逸らしてしまった。
    「実はな……」
    「実は……?」
    「トイレの修理をしとった」
    「えぇ?」
    確かに2個のトイレは故障中だった。しかし白石先輩、完璧な人だとは思っていたけれど、まさかトイレの修理まで出来るなんて。
    「じゃあこっちのトイレ、直ったんですか?」
    「直ってへん」
    「ええっ」
    「自分のトイレの修理の才能を、過信しとった」
    「そんなぁ」
    俺は脱力した。すると腹がぐるぐると鳴って、いよいよ限界を迎える。俺は頭を下げると、故障していない方のトイレの個室に入った。
    そりゃ、普通はトイレの修理なんて出来ないし、しようとも思わないだろう。やっぱり切原の言うことも、少しは正しいのかもしれない。
    「……ふぅ」
    下着ごとハーフパンツを下ろして、便座に座る。俺を迎え入れてくれた個室は、特に何の臭いもしなかった。
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