蔵種前提ラジオはい、こんばんは。ハラテツdeナイトの時間やでぇ。パーソナリティはお馴染み、突っ込み自動販売機こと原哲也が生放送でお送りすんで。
ほんで早速やけど、ここでゲストの紹介や。今をときめくプロテニスプレイヤー、テニス界のプリンス─って何でやねん! 誰がやねん! どないやねん!
「ちょお、ちゃんと紹介してくださいよ」
勝手に紹介前に喋んなや。はい、中学の後輩の白石です。
「こんばんは。白石蔵ノ介です」
腹立つわぁ、何やねんそのええ声。
「すんません。生まれつきなんで」
よう言うわ。こいつ中1の頃なんて、ヒヨコみたいにピヨピヨ言うとったで。
「ピヨピヨて」
なぁ、懐かしいわぁ。ワテらテニス部でな、白石が1個下の後輩やったんやって。
「俺が部長で、ハラテツさんがヒラ部員やったんですよね?」
ヒラ部員って誰がやねん! どないやねん! オムツ替えてもろた恩義はないんかい!
「オムツは替えてもろてないですよ」
こいつがなぁ、ワテを部長の座から引きずり下ろして、オサムちゃんも顧問の座から引きずり下ろして。
「……?」
オサムちゃんなぁ、漁船から引きずり下ろされて死んだんやって。
「えっ、そうなんですか?」
や、突っ込まんかい!
「あ、はい」
遅いねん! 鈍いねん! お前とおると疲れんねん!
「……」
ガチへこみすなっ! はい、そんな白石にぎょーさん質問来てます。◯◯県◯◯ちゃんからのメールです。
『先日の試合お疲れ様でした。いつも応援しています。ところで白石さんの、恋の噂を全然聞きませんが、理想が高いって本当ですか? 白石さんの好きなタイプを教えてください』
はい。こういうしょーもないメールが、1億通くらい届いてます。
「しょーもなくはないでしょ。俺の好きなタイプ、興味ないんですか?」
あるかアホ。
「ほな、ヒント出しましょか?」
止めぇや。合コンちゃうで。
「えー……。大和撫子です。俺の好きなタイプ」
は? 戦艦ヤマト?
「そうそう、こうね、どっしりと構えた……」
ん? どないしたん? 電池切れたか?
「や、戦艦ヤマトの知識が無くて」
アホか。
「何で俺、下調べしてこんかったんやろ」
頑張れや。頑張れば勢いで乗り切れるて。
「ホンマですか?」
ホンマホンマ。
「俺のタイプは! 戦艦! 大和! です!」
こいつオモロないけど、根はいいヤツなんで。皆さんそれだけは覚えて帰ってください。
「はは」
ははちゃうで。ほんで理想は高いんか?
「はは。全然」
これは高いな。ほな次のメールです。◯◯県の◯◯ちゃんから。
『ハラテツさん、白石さん、こんばんは』
はいこんばんは。
「こんばんは」
『私は20才の大学生ですが、彼氏がいたことがありませんし、性体験もありません。周りの友人は、みんな既に経験していて焦ります。無理をしてでも、彼氏を作った方がいいでしょうか?』
はい、絶頂な白石さん、どうですか?
「え、結構ストレートな質問ですね」
まぁこれくらいの年頃やとな、悩むんやろな。
「や、でも普通やないですか? 20才で経験なくても」
えー、遅ない?
「ええっ。そう言うハラテツさんはいつなんですか?」
ワテに聞く? 15。
「15? 素行悪いわぁ」
ほな白石はどないやねん?
「や、俺は20才の時でしたわ」
遅っ。その顔で?
「顔は関係あらへん。顔で年齢決まるんやったら、苦労しませんわ」
やー、でもまぁ20才ん時なんやろ? やっぱりそれくらいまでに経験するのが、自然ってことちゃうん?
「や、20才でも早いですって。俺もその時は全然、そういうつもりやなかったし」
ほな、どういうつもりやったん?
「先輩に、温泉旅行に誘われたんですけど。俺はほんまに、普通に温泉を楽しむつもりやったんですよ」
そんなことあるか? 男と女が温泉行って、何もせんことある?
「や、男の先輩やったんで……」
え。それ話してもええやつ?
「あー。ダメでした?」
知らんけど、まぁ止めとこか。
「……はぁ」
えーっと、ほな◯◯ちゃんへのアドバイスやけど。年齢的には経験しておいてもええかなって思うけど、無理にするもんでもないな。とりあえず周りのダチに、ええ男紹介してもらい。付き合わんでもええけど、知り合いが増えるのはええことやからな。
「……」
そない深刻な顔すんなやぁ。これラジオやでラジオ。
「や、そんなにまずいですかね? 男同士って」
えー、◯◯ちゃん。女同士も視野に入れろとの、アドバイスが入りました。
「俺はその人のこと、今も好きなんですけど」
え、そうなん?
「っ、はい」
ほんならよかったわ。や、そういうつもりはなかったとか言うから、てっきり……。や、ほんまによかった。好き同士やったんやろ? ひゅーひゅーやな。
「や、向こうがどう思っとるかは、ちょっと……」
ええ加減にせえよ! お前が一方的に好きでお前がそんなつもりなかったのに、そういう事になる訳があるか!
「や、多分、俺の身体目当てなんですよ」
何でやねん! どないやねん! どんな大和撫子やねん!
「そういう意味では、戦艦ヤマトの方が近いかもしれへんですわ」
ヤマトは戦わずして沈むんやって。お前が沈められとるやん。
「ほな、俺が戦艦ヤマト?」
もうそれでええわ。お前がヤマトや。
「あ、メール来とる」
ヤマト本番中やで? 携帯の電源は切っとけや。
「ふふ」
ふふちゃうで。メール見んなや。
「『俺は大和撫子や』言うてます」
え、ナデシコ今ラジオ聞いてくれとるん? 何やねん仲ええやん。もう勝手に末永く─あっ!
「はい?」
……すまん。差出人の名前、見えてもうた。
「あっ」
あー、あの人かぁ……。
「別に知られても、気にせん人やと思いますけど」
知っとるけど……、や、そうかぁ。あー。
「……」
ちょお、今日もう話す気にならへんわ。残りの時間、お前が喋れや。
「ええんですか? めっちゃオモロいトーク、考えてきたんですよ」
やっぱりワテが話すわ。
その晩、いつも通りハラテツのトークは冴え渡ったが、どこか一抹の侘しさがあったという。