プレゼント交換(上)「それでは最後に、お待ちかねのプレゼント交換としましょう」
コーチの言葉を合図に、会場内の人達が次々に、巨大なクリスマスツリーに向かっていく。ツリーの根元には、様々な大きさのプレゼントが山積みになっとった。それぞれ全部、俺達が自分で用意した物や。
「やったー、プレゼントや」
「こら金ちゃん、走ったらあかんで」
金太郎はさっさと、一番大きいプレゼントを選んで箱を開けた。中を見てわーわー騒いどる。ほんまに無邪気や。俺は周りを見渡しながら、これまでのことを振り返った。
このオーストラリアの地で、U-17W杯は開催された。これまで顔も知らんかったような高校生の先輩達と、数々の熱い試合に挑んだ。
俺はこの夏の全国大会、個人では勝ったけどチームでは負けた。そしてオーストラリアの、2度目の夏みたいな12月に、俺は個人で負けて、チームとして勝った。
試合に負けたのは悔しかったけど、こうしてこのメンバーで優勝出来て、ほんまに嬉しい。
そんな俺達の祝勝会として、帰国前に開催されたこのパーティー。他国の選手達も参加してくれて、えらい盛り上がったけど。このプレゼント交換が終わったら、いよいよ終いや。
俺は何だか名残惜しくて、なかなかプレゼントを選べへんかった。そうしているうちにプレゼントの山は、どんどん小さくなっていく。ぽつんぽつんと残っていくプレゼントは、今の俺みたいや。
俺はようやく決心をすると、残ったプレゼントの中から、目についた一つの箱を選んだ。緑色のリボンの巻かれた、手のひらより少し大きいくらいの、結構厚みのある箱や。
俺は差出人にお礼が言いたくて、壁際に寄ってプレゼントを開けようとした。ふと見ると、壁際に並んだ椅子に種ヶ島先輩が座っている。手に持っているのは─
「あっ」
「ん? ノスケやん。お疲れ」
種ヶ島先輩が、俺に気付いて手を上げた。
「お疲れ様です。ねぇそのプレゼント、中身何やと思います?」
「えー、何やろ? めっちゃええやつ?」
「あ、うーん……」
種ヶ島先輩が持っているのは、水色のリボンの巻かれた平たい箱で、俺の用意した物に間違いない。中身は重くもなく割れもしない、帰国する際に邪魔にならない物やったけど。めっちゃええ物かと聞かれると、少し困る。
俺が言い淀んでいると、種ヶ島先輩はさっさとリボンを解いて、包み紙に手を掛けていた。
「ほな出すで。3、2、1、ちゃい☆」
「……」
「ちょお、お土産やん」
種ヶ島先輩が勢いよく破いた包み紙の下には、オーストラリアでは定番の、チョコレート店の名前が印字されとった。ご丁寧に、"CHOCOLATES"という文字も添えられている。
「やっぱり消え物が無難かなと。日本でお土産として、配ってもろてもええし」
「ふふ。ほな配らせてもらおかな」
そう言いながらも種ヶ島先輩は、早速開封してチョコレートを食べ始めた。
「美味いわ。おーきにな」
種ヶ島先輩はもう一粒つまむと、俺に「あーん」ってするみたいに差し出してきた。せやけど俺は自分の手で受け取って、そのまま食べた。うん、美味しい。
「俺はこれにしたんですよ」
俺は種ヶ島先輩の隣に座ると、さっき選んだ箱を膝の上に乗せた。少し重い。
「それ、中身何やと思う?」
「え。これ、種ヶ島先輩の選んだやつですか?」
「ふふふ」
先輩は、意味ありげに笑うだけやった。
種ヶ島先輩が俺のプレゼントを選んで、俺が種ヶ島先輩のプレゼントを選んだとしたら、すごい確率やとは思うけど。それが本当かどうかは、開けたら分かることや。
「ほな、開けますね」
このW杯で、俺のテニス人生を変えるくらいに、えらいお世話になった人。その先輩からのプレゼントを貰えるんやったら、めっちゃええ記念になると思う。
俺はドキドキしながら包装紙を外し、中の箱を開けた。
「……え?」
更にその中に入っていたのは、何やらケバケバしいデザインの箱やった。雰囲気からして、あんまり上品な物ではないことが分かる。
「何ですか、これ」
「ん。オナホ」