プレゼント交換(中)「……は?」
「オナホ〜ル☆」
「や、正式名称聞いとるんちゃうんで」
「自分では買われへんやろ? 高校生のお兄さんからの、愛のプレゼントやで」
「ちょお、勘弁してくださいよ。金ちゃんとかが選んどったら、どないしてくれるんですか」
「せやから誰が持ってくか、ここでこうして見張っとったんやん」
「そんなオーストラリア最後の夜に、態々やることがそれですか」
たまたま目が合ったというのは俺の勘違いで、どうやらずっと見られとったらしい。めちゃくちゃアホらしいんやけど、種ヶ島先輩は楽しくて仕方がないみたいで、無言でにやにやと笑っとった。あー、腹立つ。真田クンとかに叱られたらええのに。
「とにかく、ほんまに困りますって。こんなんいらんし、返しますわ」
「えー、そうなん? ほな、赤福にでもやろかな」
「切原クンに?」
赤福─切原クンは立海大附属中の2年生で、確かな実力を持っている。先日行われた準決勝ドイツ戦でも、種ヶ島先輩とダブルスを組んで大活躍やった。そこで繰り出された更互無という技も、それは見事なものやった。俺も種ヶ島先輩とダブルスを組んだけど、そんな技は出されへんかったけど……。
その切原クンに、こんな物とはいえ種ヶ島先輩のプレゼントが、渡されるというのは少し惜しい。
「あー、切原クンにはちょっと。教育に悪いですよ」
「教育て。1才しか違わへんやろ」
「切原クンは、子供っぽいから。……これ俺が言うたこと、内緒にしておいてくださいね」
「ふふ」
種ヶ島先輩は大袈裟に頷いてから、「分かった分かった」って言うと、俺の持っとる箱に手を伸ばしてきた。
「ちょお、どうするつもりですか?」
「ヒ・ミ・ツ」
「あー、もうあかん。絶対に渡しません。俺が責任持って保管します」
「そんなん言うて、ノスケもホンマは使いたいんやろ?」
「使いませんて」
「またまたぁ」
「ほんまやって。俺、そもそもそういうことせんので」
「えー、せんってどういうこと?」
「や、ほんまにしないんで」
「オナニーせんってこと?」
「はい。そうですよ」
「そんな訳ないやろ。それとも変なやり方してへんよな?」
「えっ」
「床オナとかあかんで。普通のセックスが出来ひんようになるで」
「……」
俺は急に不安になった。
オナニーとかそういうことは、やり過ぎるとアホになるって聞くから。俺は普段はなるべく、そういうことはせんようにしていた。
でもそうは言っても日によっては、どうしようもなくムラムラしてしまう時もあって。何をしても落ち着かんくて、全然寝られへんくて。結局もぞもぞしてベッドに擦り付けたりとか、そういう感じになってしまう時もあった。
それが床オナというヤツに含まれるのかは知らんけど。さっきまでにやにやしとった種ヶ島先輩が、急に真面目な顔になるから。俺も心配になって、どうしたらええか分からんくなってまう。
「ほなやっぱりオナホの出番やな。床オナなんて忘れて、これで正しいオナニーが出来るようになっとき」
「や、でも……」
「心配あらへんって。使い方教えたろか?」
「……」
ケバケバしいパッケージには、英語でつらつらと商品説明が書かれていた。こっちで調達したんやろう、日本語訳は見当たらない。俺も英語はそれなりに出来るけど、多分卑猥な文章が書かれてるんやろう。知らない単語が多くて、パッと見では理解出来へん。
「な、教えたるて」
「……はぁ」
種ヶ島先輩も俺を心配してくれとるんか、急に親身になってきて。こうなってくるとここは一つ、実際にやるかやらないかは別にして。正しいオナニーというもののやり方を、ちゃんと聞いておいた方がいいのかもしれない。
「ノスケって家族多い? ゆっくり風呂入れる?」
「家族は5人ですけど、時間は30分くらいです。大抵一番風呂なんで、急かされたりとかはないですね」
「一番風呂かぁ。臭い気になりそうやな」
「はい?」
「まずは使うタイミングやけどな、風呂の時に使うのがええで。お湯であっためた方が、気持ちええから」
「はぁ、なるほど」
「せやけど後から家族が入るんやったら、臭いに気を付けてな。シャンプーとかで誤魔化してや」
「あぁ、はい」
「それから精液には気を付けなあかん。精液ってタンパク質やろ? お湯で固まって排水管が詰まったりするらしいから、終わったら冷水で流すんやで」
「え、めっちゃ重要な情報やないですか」
「せやろ」
あかん。普通にめちゃくちゃ勉強になる。
「ほんでな、中にローション入れてな。ほら、そこにローションあるやろ」
言われて見れば確かに、ケバケバしい箱の横にボトルが添えられている。こっちは箱の方とは違って、シンプルな見た目だ。
「量は多めで。ベッドで溢れたりしたら嫌やけど、風呂場なら安心やろ」
「さすが、合理的ですね」
「先輩ナメたらあかんで。ほんで使う前に1回、ぎゅって手で潰す。これでバキューム力アップや」
「ははぁ、そんな力が」
正直ナメとったけど、こんな道具にもコツとかあるんやな。何事も勉強や。
「ほんで潰したままちんちんの先っぽに当てて、挿入れながら手を離すんや。後は普通のオナニーと同じやな」
種ヶ島先輩は軽く手を握ると、股の前で2、3度上下させた。妙に生々しい。
「他に何か質問ある?」
「や、大丈夫です。ありがとうございます」
「オカズ貸したろか?」
「大丈夫です。俺はしないんで」
俺は「他に欲しい人が居たらあげますわ」とか、適当なことを言うて。軽く頭を下げてから、自分の部屋に戻った。