Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    kk_69848

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 106

    kk_69848

    ☆quiet follow

    乾視点の蔵種

    ある日の乾「……あれ?」
    オーストラリア◯日目の晩、午後10時08分。俺こと乾貞治は、テーブルの上のUSBメモリが無くなっていることに気が付いた。
    「参ったな」
    黒部コーチに頼み込んで借りた、個人情報も保存されている重要なUSBメモリだ。明日の朝までに返却する約束なのに、これはまずい。俺はテーブルの下やベッドの下を覗き込んだが、目当ての物は見付からなかった。
    「うーん」
    心当たりがあるとすれば、同室の白石だ。先程までテーブルの上で、セント硬貨が全種類集まったなどと言いながら、財布の中身を広げていた。今は飲み物を買いに行っているが─
    「白石が犯人の確率、100%」
    俺は携帯電話を手に取ると、白石に電話を掛けた。しかし俺の期待虚しく、軽快な着信音が白石のベッドサイドから流れただけだった。どうやら財布だけを持って出掛けたらしい。
    「やれやれ」
    他の場所も軽く探したが、やはりUSBメモリは見付からなかった。仕方がない。そのうちに白石も戻って来るだろう。返却期限は明日の朝だ。
    俺はベッドで横になりながら白石を待ったが、気が付いたら眠ってしまっていた。

    翌朝、俺は目を覚ますと、真っ先に白石のベッドを確認した。
    ─居ない。
    ベッドサイドの携帯電話も、昨夜の位置から変わっていない。あれから戻っていないのだろうか。何かしらのトラブルという可能性は、白石に限って考えにくい。あるとすれば、他の誰かの部屋に泊まったか。いずれにせよ、コーチに報告だ。
    俺は部屋を出るとエレベーターに乗り、12階のコーチの部屋を目指した。

    「─という訳で、白石とUSBメモリが行方不明です」
    「そうですか、弱りましたね」
    「すみません」
    「いえ。報告ありがとう」
    黒部コーチはそう言うと、ノートパソコンを開いた。いくつか操作すると、モニターにこの宿泊棟のエントランスが映し出された。一見静止画のようだが、どうやら高速で巻き戻されているらしい。
    「……」
    しばらく眺めるも、誰も映らない。
    「どうやら白石くんは、宿泊棟から出てはいないようですね」
    「では、中に?」
    「誰かの部屋に泊まったのかもしれません。遠野くんなんかは、君島くんの部屋に入り浸っているそうですよ」
    君島先輩の困惑した顔を思い浮かべて、思わず苦笑する。しかし君島先輩はあの遠野先輩を、同時に憎からずも思っているようで。人間関係というのはなかなかに不思議だ。
    「次は、USBメモリを」
    またコーチがノートパソコンを操作すると、今度は選手タウン近辺の航空写真が映し出された。
    「もう少し、と」
    日本代表の宿泊棟が拡大された。よく見れば、その中の一部が光っている。
    「ここ、君の部屋では?」
    黒部コーチのUSBメモリ、やけに大きなキーホルダーが付いていると思っていたが。察するにどうやらGPSだったようだ。個人情報を扱うとはいえ、やはりこの人達はデータの重要性を理解している。
    「えっと、そうですね」
    光っている場所は確かに、俺達の1004号室のようだ。白石が持ち出したという線は、これで完全に消えた。
    「すみません。もう一度よく探してみます」
    「よろしく頼みますよ」
    白石が持ち出していないならば、部屋の何処かに置き直したという説が濃厚だ。部屋を探すが早いか、白石を探すが早いか。
    「とりあえずは、10階か」
    白石が泊まるとすれば、同じ日本代表の中学生達が居る10階の可能性が高い。俺は10階に向かおうとしたが、なかなかエレベーターが来なかった。少し待ってから、階段の方が早いかと踵を返せば、そのタイミングでエレベーターが到着した。やれやれ、今日はなんだかついていない。

    乗ってさえしまえば、エレベーターは直ぐに10階に到着した。扉が開くと、視界の隅で何かがひらめく。
    「あれ」
    「あ、乾クン」
    白石だ。それほど心配していた訳ではないが、やはり顔を見ると安心する。
    「白石、昨夜はどうしたんだ?」
    「あ、すまん。……銀の部屋に寄ったら、うっかり寝てしもて」
    「石田の?」
    「おん」
    「連絡ぐらいはしてほしいな」
    「悪かったわ。次からは気を付ける」
    「あぁ。それと、机にあったUSBメモリを知らないか?」
    「あっ」
    白石は慌ててポケットに手を突っ込むと、中からUSBメモリを取り出した。
    「落としそうやから移動させよ思て、そのまま……。うわー、俺やらかしてばっかりや。ほんまにすまん」
    「あるならよかった」
    白石からUSBメモリを受け取る。これにて一件落着だ。
    「ところで白石」
    「うん?」
    「今、石田の部屋から出たところ?」
    「……そやけど?」
    石田の部屋はエレベーターの隣、俺達の部屋とは廊下を挟んで反対側だ。
    「分かった。後でドリンクの試飲を頼む」
    「あはは……。甲羅(コーラ)やったらええよ」
    俺は笑顔で、再び12階へと向かった。

    黒部コーチの部屋には先客が居た。高校生ナンバー2、日本の守護神である種ヶ島先輩だ。
    「ちゃい☆」
    「お話し中すみません、USBメモリが見付かりました」
    「あぁ」
    「それと、白石も」
    「それはよかった」
    そそくさと、コーチにUSBメモリを渡す。
    「何や、ノスケ探しとったん?」
    ノスケというのは、種ヶ島先輩独自の白石の呼び方だ。
    「はい。昨夜から行方不明だったので」
    「ふふ。ノスケもワルやなぁ」
    全く心配していない─という顔で、種ヶ島先輩が笑った。最近この二人は親しそうにしているが、どうやら白石のことを随分と信頼しているらしい。
    「それでは、またコートで」
    「俺も戻ろ。ほなコーチ、港までのバスの手配、よろしゅうな」
    「ええ」
    俺と種ヶ島先輩は、そのまま連れ立ってエレベーターに向かった。直ぐに到着したエレベーターに、そのまま二人で乗り込む。
    「何かのデータ? えらい勉強熱心やん。次の大会では、大活躍間違いなしやな」
    「ええ、そうありたいですね」
    「絶対に見に行くからな。差し入れ期待しとってや」
    「はは。楽しみにしてます」
    エレベーターの扉が開いた。高校生達の部屋がある、11階に到着したのだ。
    「ほな、また後でな」
    「はい」
    軽快なステップで種ヶ島先輩が降りる。ゆっくりと扉が閉まる中、俺は何とはなしに先輩の後ろ姿を眺めた。狭まる視界の中で、肩脱ぎされたジャージの袖が、ひらひらとひらめく。
    「……あっ」
    思い出した。種ヶ島先輩と遠野先輩の部屋は1104号室。俺達の部屋の、直ぐ真上だ。
    「……成る程」
    これはあくまで推測に過ぎないが、何はともあれ、中々に面白いデータが揃った。俺はエレベーターの中で、一人ほくそ笑むのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👍💻👍👏👍💴👓🌿
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    gohan_oic_chan

    PAST行マリ
    卒業後同棲設定
    なんか色々最悪です
    証明 朝日を浴びた埃がチカチカと光りながら喜ぶように宙に舞うさまを、彼はじっと見つめていた。朝、目が覚めてから暫くの間、掛け布団の端を掴み、抱きしめるような体勢のまま動かずに、アラームが鳴り始めるのを待っていた。
     ティリリリ、ティリリリ、と弱弱しい音と共に、スマートホンが振動し始める。ゆっくりと手だけを布団の中から伸ばし、アラームを止める。何度か吸って吐いてを繰り返してから、俄かに体を起こす。よしっ、と勢いをつけて発した声は掠れており、埃の隙間を縫うように霧散していった。
     廊下に出る。シンクの中に溜まった食器の中、割りばしや冷凍食品も入り混じっているのを見つけると、つまみあげ、近くに落ちていたビニール袋に入れていく。それからトースターの中で黒くなったまま放置されていた食パンを、軽く手を洗ってから取り出して、直接口に咥えた。リビングに入ると、ウォーターサーバーが三台と、開いた形跡のない数社分の新聞紙、それから積み上げられたままの洗濯物に囲まれたまま、電気もつけずに彼女はペンを走らせていた。小さく折り曲げられた背が、猫を思わせるしなやかな曲線を描いていた。
    13177