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    kk_69848

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    kk_69848

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    製薬会社で働いてる白石とそのモブ先輩♀
    蔵種は付き合っている

    モブ♀と蔵種白石蔵ノ介くんと、一発ヤりたい。女ならば誰もが、一度は思うことだろう。
    製薬会社で働き始めて一年。一つ年下の新人として、白石くんが入社した。それからずっと、機会を窺ってきた。
    どうせ女と遊びまくってるんだろうって、そう思ったのに。全くチャンスが訪れない。もしかして職場の女には、手を出さない主義なのかもしれない。出会い方、ミスったか。
    でも出会い直すなんて出来ないし、多少強引にでも、ホテルに連れ込むしかない。
    そうして私は飲み会の席で白石くんに絡みまくり、その後に何とか二人きりになることに成功したのだ。
    「ねぇ白石くん、二人で飲み直そうよぉ」
    騒がしい飲み屋街で、白石くんのジャケットをつまんで引っ張る。なかなかセンスのいいジャケットだ。
    「せやから俺、もう帰るんやって」
    「えー、まだ帰るには早いじゃん」
    「飲み足りんのやったら、二次会の方に合流したらええやろ」
    「やだー。白石くんと飲みたい」
    「俺は飲みたない」
    「えー、何でそんなこと言うの? ひどーい」
    私は歩道に座り込んだ。アスファルトがひんやりと冷たい。
    「ちょお、何しとるん」
    「白石くんが飲んでくれないんだったら、私帰らない」
    「えっ」
    「置いてくなら置いてけばいいじゃん。白石くんに置いてかれたって、みんなに言いふらしてやるから」
    「勘弁してや。ほら、帰るで」
    白石くんが、私の手を引っ張った。顔は王子様みたいにキレイなのに、手は結構ごつごつしている。男の人の手だ。あぁ、かっこいい。ヤりたいなぁ。
    「やだ。帰らない」
    「ほら立って」
    「やだやだ」
    「ちょお◯◯さん、飲み過ぎやで」
    「やだ引っ張らないで。今日、3千円のストッキングはいてるんだから。破れたらみんなに言いふらすよ」
    「や、高すぎるやろ」
    白石くんは本当に驚いたのか、関西人だからか。大袈裟なリアクションをして笑った。いや、多分白石くんは本当に知らないんだ。白石くんとヤりたい女の子が、何にいくらお金を使っているかなんて。あぁ酷い。モテる男って本当に酷い。
    「あぁ、友香里?」
    「えっ」
    握られていた手が離れたと思ったら、白石くんが携帯で電話を掛けていた。え、私が居るのに電話とかするの? そもそも友香里って誰? 彼女?
    「今◯◯におるんやけど、助けてくれへん? おん、◯◯の◯◯の辺り。は? バッグ? そんなん無理やって。化粧品? まぁ、それくらいやったら。ほな、また後で」
    白石くんは手短に言葉を交わすと、電話を切った。
    「◯◯さん、今応援呼んだからな。立てる? 気持ち悪いとかない?」
    「友香里って誰?」
    「あぁ、妹やけど」
    「嘘」
    「嘘ちゃうて」
    「絶対に嘘。男が妹って言う時は、絶対に嘘だから」
    「何やそれ。ほんまやって」
    絶対に嘘だ。みんなそうやって、私のことをバカにしてるんだ。
    「彼女にバッグと化粧品を買ってあげるんだ。ずるいよ、彼女ばっかり」
    「せやから彼女ちゃうし。仮に彼女やったとしても、誰に何を買おうが俺の自由やろ」
    「ひどーい」
    酷い。冷たい。白石くんのバカ。
    「とにかく移動しよか。ここ、他の人の邪魔になってまうやろ?」
    「私と他の人と、どっちが大事なの?」
    「ちょお、ホンマに飲み過ぎやって」
    飲み過ぎなのは、確かにそうかもしれない。でも白石くんは素っ気ないし、彼女は呼ばれるしで。全部が全部、嫌になってしまう。
    白石くんは周りの通行人に対して、「すんません、この人酔ってしもて」ってぺこぺこ頭を下げて。それが何だかムカついた。他人にはそんなに優しいのに、私には全然優しくない。
    こうなったら絶対に、立ち上がってやらない。そう決意した時。鈴の音みたいに綺麗な声が、すっと耳に入ってきた。
    「クーちゃん、来たでー」
    「あ、ほら妹や」
    「え?」
    白石くんの指差す方向を見ると、めちゃくちゃな美少女が、こっちに向かって手を振っていた。クーちゃんという響きに、一瞬頭が混乱したけれど。白石くんの下の名前が、蔵ノ介ってことをすぐに思い出した。
    「やっぱり彼女じゃん。妹がお兄ちゃんのこと、クーちゃんなんて呼ぶ訳ないじゃん」
    「そんなん、俺に言われても困るわ」
    友香里は、まるで自分がこの世界の主人公です、みたいな顔をして。こっちに向かって歩いてきた。顔も可愛ければ、すらっとしたスタイルで服のセンスもいい。ただ一つおかしいのが、隣に長身の男が立っていること。
    その男は銀髪で褐色の肌を持ち、ブランド物の服で身を包んでいた。妙な色気があって、白石くんとはまた違ったタイプのイケメンだ。そのイケメンと友香里ちゃんが、腕を組んで歩いている。
    「お待たせ。そっちがクーちゃんの会社の人?」
    「早かったやろ。たまたま近くでデートしててん☆」
    「いやいやいや。デートする相手、間違うとるやろ」
    「やって、ノスケが相手してくれへんから」
    銀髪のイケメンが思ったよりも高く、甘ったるい声で白石くんをなじる。どういうこと? 白石くんの彼女、この銀髪と浮気してるの?
    「この子が、ノスケの会社の困ったちゃんかぁ」
    そう言って、銀髪が私の顔を覗き込んだ。意外と目がくりっとしてて、可愛い顔立ちかもしれない。
    「そーです。私が困ったちゃんです」
    「ふふ。意識ははっきりしとるな」
    「お姉さん大丈夫? 寒くないですか?」
    「ちょっと寒い……、かも」
    「ほな、あったかい飲み物買うてくるわ」
    友香里はそう言って立ち去った。案外いい子かもしれない。
    「さてと。ほなお姉さん、もう少し邪魔にならんとこに行こか」
    銀髪が私に手を差し出す。そうしたら白石くんが、さっと間に割って入った。
    「ちょお修二はええわ。俺がやるから」
    「ええてええて。お姉さん、俺みたいな男どない?」
    「ちょお、俺がやるから」
    二人のイケメンが、私に手を差し伸べている。これはちょっと、気分がいいかもしれない。
    「えー……。どうしよっかな」
    「俺、ええ店知っとるで。二人で飲み直さへん?」
    「誘う相手間違うてるやろ。◯◯さん、俺が駅まで送ったるから」
    「うーん。修二さんもかっこいいけど……」
    でも私、こう見えて結構一途なんだ。
    「やっぱり、白石くんがいいなぁ」
    「あらら」
    「ほれみぃ。修二なんて最初から呼んでへん」
    「白石くんがキスしてくれたら、今日は大人しく帰るよ」
    「えっ」
    白石くんが、ぎょっとした顔をする。そんな顔、しなくてもいいのに。でも、思ってることが全部顔に出ちゃうところは、結構可愛い。
    「キスて……。◯◯さん、キスって好きな人とするもんやで?」
    「私は白石くん好きだよ。白石くんは、私のこと好きじゃないの?」
    「や……」
    「好きじゃないの?」
    「……」
    「ノスケ、キスしたったらええやん」
    「や、もう上司呼ぶわ」
    「あー、そういうこと言うんだ。白石くんって冷たい」
    「せやでノスケ。お姉さんの立場ってもんもあるやろ」
    「知らんわそんなもん。自業自得やろ」
    「ひどーい」
    「酷いなぁ。ほなお姉さん、俺とちゅーしよか」
    「え?」
    「俺とのちゅーやったら、24時間365日営業中やで☆」
    「ちょお、修二」
    「うーん……」
    どうやら白石くんとは、どうあがいてもキスすら出来そうにないし。このイケメンで手を打つっていうのも、ありなのかもしれない。道路に座り続けるのも、いい加減もう冷たいし。
    「じゃあ、そうしよっかな」
    「や、せやったら俺がキスするわ」
    「白石くん?」
    白石くんがキスしてくれるんなら、やっぱりそっちの方がいい。ラッキーって、そう思ったのに。修二が白石くんとの間に、すすっと割り込んできた。
    「ええて。俺がちゅーするから」
    「修二はそんなんせんでええて。俺がキスするわ」
    「ノスケこそせんでええて。俺、こういうの得意やから」
    「ちょお、得意ってどういうことや」
    「ええから。ノスケはせんでええて」
    「修二こそせんでええわ」
    「え、何で……」
    二人のイケメンが、私の前で言い争う。ほんとだったら、ドラマみたいになるはずなのに。
    「何で私とのキスが、罰ゲームみたいになってるのぉ?」
    「や……」
    酷い。酷すぎる。こんな思いをさせる為に、わざわざこの銀髪を呼んだんだろうか。もう絶対に職場で、白石くんの悪口を言いふらしてやる。さすがの私も、目に涙が薄っすらと浮かんだ。
    「酷いよ、酷い」
    「あんな、◯◯さん」
    「やだ、酷い」
    「ちょお見とって」
    そう言うと白石くんは、修二の胸ぐらを掴んだ。あぁやめて。私の為に争わないで。
    「……っ」
    「え?」
    白石くんは、修二を殴ったりなんかはしなかった。白石くんの顔が、修二の方に傾いて。修二のくりっとした目が、より一層、丸くなったのが見えた。二人の顔が、ゆっくりと重なる。
    「え? え?」
    随分と、時間がゆっくりに感じた。重なった顔が一瞬止まって、また離れた。修二がぺろりと、自分の舌を舐めた。
    「え……、キスした?」
    白石くんが振り返った。飲み屋街のネオンに照らされて、ほんのりと頬が赤く見える。
    「……こういうことやから」
    「え……、ホモってこと?」
    「ノスケええの? 会社の人なんやろ」
    「ええよ。いつかは言うつもりやったから」
    「嘘……、嘘だ。女避けの作り話でしょ」
    「んふふ」
    そしたら修二が、まるで芸能人の婚約発表みたいに。左手の薬指にある指輪をきらりと見せつけてきた。
    「えっ」
    白石くんの方を見れば、白石くんがワイシャツのボタンを外して、中からネックレスを引っ張り出した。トップにはシンプルな指輪がきらりとぶら下がっている。
    「え、ほんとに……?」
    「悪いけど─」
    「バ……」
    「うん?」
    「バカみたいっ。そんなの時間の無駄じゃんっ」
    「え?」
    「私の時間返してよ! 今日だって、水色が似合う子が好きって言ってたから、わざわざ水色のピアスしてきたんだよ」
    隣で修二が「んはは」って笑った。ムカつく。もう全部がムカつく。
    「お待たせー。限定のティーラテ買うてきたで。どっちがええ?」
    丁度その時、友香里が戻って来た。私は「ありがとっ」って言って両方受け取ると、二杯ともごくごくと飲み干した。ほんとは熱かったし量が多くて吐きそうだったけど、そんなのどうでもいい。
    「はー、温まったわ」
    「あ、あぁ、うん。よかったわ」
    「友香里ちゃんさ、これから飲みに行かない?」
    「え、私? クーちゃんやなくて?」
    「行こ行こっ。こんなホモ達に構ってられない」
    「う、うん」
    白石くん達がどんな顔をしてたかなんて、そんなのは知らない。私はお気に入りのお店に、友香里ちゃんを連れて行ってあげた。銀髪の行きつけの店よりも、絶対にいい店だと思う。勿論私のおごりだし、年上のお姉さんとして、たっぷりエスコートしてあげた。友香里ちゃんは可愛いし、話も面白いし(白石くんの何倍も!)、最高の夜になった。

    それから友香里ちゃんとは、今でも時々連絡を取り合う仲だ。友香里ちゃんいわく、白石くんと銀髪は、今でもよろしくやっているらしい。そんな話を聞く度に私は、何でイケメンって手に入らないんだろうって、深い深いため息をつくのだ。
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