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    kk_69848

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    蔵種全年齢
    恋心を自覚していないぐらいの白石(高1)が、種ヶ島の大学の学祭に行く話です。

    木の葉を隠すなら(上)「あ、ノスケこっちこっち」
    「種ヶ島先輩っ」
    デコレーションされた正門をくぐると、派手な出店の中で種ヶ島先輩が、手ぇ振って俺達を出迎えてくれた。
    「どうも、お久し振りです」
    「みんな元気そうやなー。どれ食べる? 奢ったるわ」
    U-17W杯も終わって、俺は高校1年生になった。今日は大学に進学した種ヶ島先輩から学祭に誘われて、四天宝寺のみんなで遊びに来たとこやった。
    種ヶ島先輩の所属するテニス部では、チョコバナナの店をやっとった。長机の上には、カラースプレーとかで彩られたチョコバナナが、いくつも並んどる。
    「やった、奢りですか?」
    「ワイはこれや」
    「ほな俺はストロベリー」
    四天宝寺のみんなが、次々とチョコバナナを奪っていく。
    「こら、アカンてそないに。すんません、払いますわ」
    「ええてええて」
    種ヶ島先輩は笑って言うと、俺にこっそりと耳打ちをした。
    「ここ正門入ってすぐの場所やろ? めっちゃ儲かるんやって」
    「あ、はは。ほな、お言葉に甘えて」
    俺はスタンダードなミルクチョコレートのチョコバナナをもらうと、一口かじった。バナナは少し硬めやったけど、青空の下で食べるチョコバナナは美味い。
    「おやおや、大勢のお客さんだね。修さん、案内でもしてあげるの?」
    いつの間にか現れた入江先輩が、いつもの笑顔で種ヶ島先輩の顔を覗き込んだ。中高一緒の学校やったこの二人の先輩は、学部は違えど大学まで同じになったらしい。
    「入江先輩も、お久し振りです」
    「久し振り、白石くん」
    「案内したってもええけど、店番もあるしなぁ」
    「あの、時間はいつでもええんですけど。テニス部の設備を見せてもらうことって、出来ませんか?」
    「ええでー、どんどん見たって。奥の建物にテニス部の奴らおるから、そっちで案内してもらってや」
    「そっちになら、テニス部の実績も展示してあると思うよ」
    「え、ここってテニス部の出店とちゃうんですか?」
    「ここはテニサー。俺、両方に所属しとるんやって」
    「あ、へぇ。そういうパターンもあるんか……」
    出店の中にはえらい爪の長い女の人もおって、確かにあんまり熱心には、テニスしてなさそうやなって思えた。
    「ほな、入江先輩も両方に入っとるんですか?」
    「僕? 僕は今は、どっちにも入ってないかな」
    入江先輩はいつもの、嘘かホンマかよう分からん顔で笑った。特に手伝いもせずにのんびりしとるから、ほんまに所属しとらんのかもしれん。一方の種ヶ島先輩は、案外真面目に働いとって、てきぱきと出店の仕事をこなしとった。
    「後ろにお客さんおるから、ちょおどいてな。食べ終わったら、割り箸ここに捨ててや」
    「あっ、はい」
    俺は金ちゃんの動きを制御すると、無駄のない動きで割り箸をゴミ袋に捨てた。そしたらふと、長机の上に大き目のフォトファイルがあるのに気付いた。表紙には『ブロマイド、1枚200円』と書いてある。
    「ブロマイド……?」
    「せやで。テニサーよりすぐりの、美男美女のブロマイドや。俺のもあるから買うてって」
    「うわ、しょーもな」
    「こら財前、あかんやろ」
    「小春のブロマイドやったら、なんぼでも欲しいけどな」
    「や〜ん、ユウくんったら」
    「はは。チョコバナナ奢ってもろたし、1枚くらい買うてこか」
    俺はなんとはなしに、フォトファイルを開いてペラペラとめくった。中には、へっぴり腰でテニスしとる人達の写真が並んどって。その中でも種ヶ島先輩は、やっぱり抜群にかっこよかった。
    「白石、買うんか?」
    「せやなぁ」
    どうせ買うんやったら、一番かっこええ写真。そう思っとった俺の手が、ピタリと止まる。
    「……あ」
    それは別に、テニスをしとる最中の写真ではなかった。ベンチに座って、休憩しとるだけの写真。せやけど。
    「……」
    写真の中の種ヶ島先輩は、ポロシャツの裾をがばっと持ち上げて、汗を拭いとるとこやった。剥き出しになったたくましい腹筋に、真夏の太陽(恐らく)が当たって、くっきりと陰影を付けとる。その肌は雄々しくしっかりと日に焼けとって。せやけどハーフパンツとの境んとこに一筋、全く焼けとらん真っ白な肌が見えた。
    俺は一旦目ぇそらしてから、もう一度その写真を見た。一際鮮やかに輝くその写真には、やっぱり種ヶ島先輩の腹が写っとって。俺は見たらあかんもんを見てしもたような、居心地の悪さを感じながら。同時に腹の奥底から、得体の知れない感情がふつふつと沸き上がってくるのを感じた。
    「あれ、何やその写真」
    「えっ」
    種ヶ島先輩の刺すような声に、俺の身体はびくりと跳ねた。
    「あかんやん、そないエロい写真」
    種ヶ島先輩は俺からファイルを取り上げると、写真を1枚取り出してビリビリに破いた。長机の下のゴミ袋に、写真の破片がはらはらと落ちていく。
    「あ……、や、俺」
    嫌な汗が背中に浮かんで、頭ん中が真っ白になった。何か言わなあかんって思うのに、口の中が乾いて、一瞬で唇がカサカサになる。何か言わな。何か何か何か─
    「見てしもた? 忘れたってな」
    そう言うと種ヶ島先輩は、俺の手の中に写真のファイルを戻した。俺の視界の中にはさっきと同じ場所に、種ヶ島先輩の腹が見えとる写真がある。
    「……え?」
    破かれたはずの写真がそこにはあって。俺はまるで、初めてマジックショーを見た子供みたいにうろたえた。
    「気付いとらんかった? スコート、めくれとったんやって」
    「……あ、はぁ」
    スコート? 状況が分からんままフォトファイルをよく見れば、1箇所写真が入っとらん場所がある。どうやらそこに入っとった写真で、女の人のスコートがめくれとったらしい。
    俺が種ヶ島先輩の写真をじろじろ見とったことが、バレた訳ではなさそうや。そう気付いて一安心はしたものの。バクバクいう心臓は、そう簡単には収まらんくて。俺は先輩らに簡単に挨拶をすると、そそくさとテニス部の展示へと向かった。
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