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    まだ終わりません…次回で終わります

    オメガバース蔵種(下2)翌朝、種ヶ島はいつも通り登校した。高校3年生の2月。種ヶ島の通う舞子坂高校も、他の一般的な高校と同じく自由登校の期間である。
    種ヶ島は、既に進学先が決まっていた。したがって必死に勉強する必要性も無かったし、部活も引退していたのですることも無かった。
    しかし種ヶ島は、学校で過ごすのが好きだった。人影の少ない教室で級友と駄弁ったり、職員室に顔を出したり、部活の後輩にちょっかいを掛けたり。そうやって人と関わる時間が、種ヶ島は好きだった。勿論人望のある種ヶ島が、周りから声を掛けられることもある。そうして種ヶ島は、残り少ない高校生活を過ごしていた。
    しかしこの日は、いつもとは少し様子が違っていた。高校に隣接する舞子坂中学のテニス部員達が、種ヶ島の前に集まって来たのである。
    「種ヶ島先輩、ちょっとええですか?」
    「何やった? サインやったら順番に並んでや」
    中学生達は愛想笑いをしながら、何も言えずにもぞもぞとしている。種ヶ島の前に並んでいるのは、3年生の元部長や、2年生の現部長など、舞子坂中学テニス部の主力選手達だ。彼らが中学に入学した際、種ヶ島は既に高校生だった。種ヶ島が中学テニス部に顔を出すこともあったが、基本的にはあまり関わりのない後輩達だ。彼らが気後れするのも、無理もないことだろう。
    「あの、ちょっと相談したいことがあるんですけど」
    「相談? 何でも聞いてや」
    「白石って知ってますよね? 四天宝寺の」
    突然白石の名を出されて、種ヶ島の心臓がどきりと跳ねる。
    「え、知っとるけど。何?」
    種ヶ島も白石もW杯に出場したのだから、顔見知りに決まっている。そして中学生達もまた、大会や練習試合などを通して、白石とは交流があった。
    「白石の奴が種ヶ島先輩に、四天宝寺中で一日コーチしてほしいて、言うとるんですよ」
    「何でそれ、直接俺に言うてこんの」
    連絡先を知らないならともかく、見知った関係で間に人を挟むのも無礼な話だ。しかしそれは、二人の関係が悪くない場合の話だった。
    種ヶ島は昨夜の自分の行動を思い出して、ぽりぽりと頭を掻いた。
    「それもですし。何でうちの先輩が、四天宝寺を強くせなあかんのやって、俺も言うたんですよ」
    「せやなぁ」
    後輩の言い分も尤もである。
    「そしたら、交換条件や言うんですよ」
    「交換条件?」
    「種ヶ島先輩を貸してくれたら、向こうからはヒラゼンさんとハラテツさんを出すて」
    「あいつらかぁ」
    ヒラゼンこと平善之と、ハラテツこと原哲也は、四天宝寺中学の卒業生である。日本代表合宿では、ナンバー18と19を所持していた実力者でもある。しかしこの二人は中学生にナンバーを奪われ、W杯にも出場していない。
    「でもそんなん実力的に、全然釣り合うて無いやないですか」
    「や、よく言うてくれたわ。俺も今、そう思っとったんやって」
    種ヶ島が茶化す。
    「そしたら白石の奴、二人やから手厚く教えられるとか言うとって」
    「手厚くかぁ」
    「絶対に嘘ですやん」
    「あの二人、悪い奴ちゃうんやけどなぁ」
    四天宝寺の悪いところを煮詰めたような二人である。教え方どうこうよりも、会話をするだけで疲れそうだ。
    「せやからもう、断っといてもええですよね?」
    「せやなぁ……」
    種ヶ島が四天宝寺に行けば、白石と会うことになるだろう。白石が会って和解したいと思っているのならば、それは種ヶ島も望むところだ。しかし白石の思い通りに動くというのも、どうも面白くない。
    「せやったらヒラゼンらやなくて、ノスケがこっちに来るって条件に変更させてや」
    ノスケという言葉に一瞬きょとんとした中学生達だったが、その中の一人が「白石のことやで」と言った。
    「え、白石はまだ中学生ですよ。何で中学生に教えてもらわなあかんのですか」
    「ほなヒラゼンらでええの?」
    「あー、ほな白石の方がマシかぁ」
    中学生らは、「マシやなぁ」「マシや」と頷き合った。その中の一人が携帯電話を使って、白石に連絡を入れる。種ヶ島の指示通り、「同日、白石を派遣すること」という条件を伝える。
    種ヶ島と白石が入れ違うのならば、結局二人が会うことはない。さぁどう出るかと期待したが、意外にも白石はすんなりと了承した。そうして次の日曜日、種ヶ島は四天宝寺中学へ、白石は舞子坂中学へ行くことが決まった。
    後輩達は「あんまり本気で指導せんといてくださいね」とか、「無の技とか、絶対に教えたらあきませんよ」などと言いながら、舞子坂中学の敷地へと戻って行った。一人残された種ヶ島はくすくすと笑いながら、これからのことを思案した。
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