目が覚めた瞬間男の顔が真正面にあるという経験を今までの人生でしたことがなかった。学生の頃の修学旅行では個々にベッドがあったから一人で眠ったし、昔付き合っていたのは全て女性だった。ここ数年は自分の部屋で他人が寝ることはなかったから、今の俺はまあまあ、わりと、驚いている。
早鐘を打つ心臓が落ち着くまで、無言のまま一ミリも動かずにただ瞬きと呼吸を繰り返した。すこしでも動けば目の前の男が起きてしまうかもしれないから。混乱が和らぎようやく考える余裕が出てきたところで、昨夜のことを思い出す。
浮奇を拾ってから、三日が過ぎた。最初の日はまだ姿を変えられないと言うから冬用の布団を出してそこに寝かせた。次の日、体調が良くなったらしい浮奇は俺の目の前で本当に猫の姿になって見せ、ずっと一緒にいてくれた俺の愛犬と二匹で重なるように眠っていた。
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