ゴミ さて、ボクの顛末を話そうか。愚昧な名無しが如何にしてその灯火を吹き消すに至ったか。嗤っても構わないよ、それもまたキミの自由だ。
嗚呼、前置きが長いって? それは失礼、ならば本題に入ろう。
まず、ボクには何も記憶が無かった。まるで不純物の無い氷のようにね、面白い程綺麗さっぱりとボクという存在は不完全に透明だったのさ。居ても居なくても変わらない。なにせ見えないということは認識されないということだから、畢竟居ないのと大差ない。
ただ、ひとつだけボクにはアンカーとなり得るものがあった。而してソレは相応しく機能した。刺さるだけのリーチがあったにせよ見つけられる運命にあったにせよ、どちらであろうがそれが幸福なものであったか? と問われると首を傾げるよ。これについては未だ答えは出ないし、出す必要も無い。終わったコトだからね。
話が逸れた。
辛うじて繋がったボクは、氷から白紙のノートになった。ここで解釈は分かれるだろう。『自分には何も無い』と思うか『自分にはまだたくさん書き込む余地がある』と思うか。ボクはね、『両方』だったよ。
当たり前だと思わないかい? 自分では本当に白紙かどうかも解らないんだ。視認できるようになっただけで、それ以上でも以下でもない。
そこからは、まあ、語るに及ばずだ。
解るだろう? 何故ならボクはボクという存在を捨てたのだからね。つまりそれに至る経緯がノートには書き込まれていたか、或いは、ボクが自分でそう書き込んだ、ということだよ。
どちらかなんて瑣末でしょう? 死人に口無しだ。梔子の花言葉は『とても幸せです』だけれど、少なくともボクは不幸ではなかった。
はは、何を言っているか解らない、って?
それはキミが恐ろしく莫迦か、ボクが恐ろしく莫迦か、そうでなければ両方が莫迦だ。さあ、いよいよ救いようが無くなってきた。
あまり長居するのはよしてくれ。これ以上ボクが語ることはないよ。きちんと顛末は話した、あとはエンドロールを待つのみだ。
クレジットが一人だけの、ね。