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    Mitsuko__mochi

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    Mitsuko__mochi

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    ぴゅあむーちん時空2023キスの日
    OOC注意

    遅刻キスの日 玄真殿というのは、いつも澄ましたように落ち着き払っているのが常である。それが今日はどうしたことなのか、数名の神官がざわめいている。俺が来たというのに、慕情の姿も見えない。
     そのうちに、一人がこちらを向いて拱手した。彼は慌てふためいた様子で駆け寄ってくる。
    「ああ南陽将軍! 来て頂けますか!」
     どたばたと案内されたのは、勝手知ったる慕情の湯殿だった。周りには数人の神官がそわそわとしている。
    「随分と籠っていらっしゃるので、何かあったのかと――」
     だが将軍の沐浴を覗くなど言語道断。なるほど、俺を待ち焦がれていたわけだ。
    「随分って、どれくらいだ」
    「一時辰は悠に過ぎています」
    「それは……随分だな。まあいい、俺が対処するから、水を部屋に用意してもらえるか」
     そうして数名の神官を下がらせ、湯殿の扉と対峙した。もしかすると、慕情でも対処できないような、おっかない何かが起きたのかもしれない。でなければ、湯殿に一時辰も居座る理由なんてない筈だ。明け透けな話をすれば、俺はまだそういう手出しをしていないのだから。
     すうっと深呼吸をして、ごんごんと扉を叩く。応答はない。しかし、微かに物音がした。入るぞと一言つぶやき、がらりと戸を開ける。湯けむりが顔をふわりと包んだ。
    「慕情!」
     湯船の縁にその姿を認め、駆け寄った。半身を湯に沈めたまま、ぐったりと突っ伏している。ざばっと彼を引き上げると、真っ赤に火照った体が露わになった。しかし他に、何も異変はみられない。
    「風……信?」
    「む、慕情! どうした、何があった?」
     ぼんやりとした瞳で、慕情はぼうっとしている。取り敢えずと素っ裸の慕情をぐるぐる巻きにして、湯殿から飛び出した。ぼそりと、彼はそこでやっと口を開く。
    「……のぼせたんだ」



    ――昼下がり、菩薺観にて。
     村人のお願いごとをひとつこなし、私は少し休もうと戻ってきた。するとそこには、思いもよらない人影が。
    「ふふ、やっぱり君か。いらっしゃい」
     慕情は上背のある体を折りたたむようにして、木の椅子に座り込んでいた。彼は私を見ると立ち上がり、お茶を淹れようと戸棚を開ける。
    「今日はどうしたんだ?」
    「まあ、ちょっと相談事で」
    「わざわざ出向いてくれるなんて、なに、よほど深刻なのか?」
     笠を置いて振り向けば、わざとらしく慕情は盛大にため息をついた。
    「あなたの状況も知らずに、通霊で相談事なんてできないでしょう。血雨探花に盗み聞かれるかもしれないんだから」
     なるほどと苦笑いすれば、彼は肩を竦める。とぽとぽと茶が注がれるのを待って、私も慕情の傍に腰掛けた。
    「――泳ぎ?」
    「ええ。謝憐なら人よりは得意でしょう」
    「まあ……でもそれは、君もだろう?」
     この話はそんなに三郎に聞かれて困るものだろうか。そもそもなぜ慕情が泳いだりする必要があるのか。彼は俯いて茶卓の一点を見つめている。
    「私は、たいして……得意ではなくて」
    「うん、しかし泳ぎが得意な神官なら他にいるじゃないか。君の本分は違うんだから、得意な者に任せればいいじゃないか」
     慕情はなんとも悔しそうな表情で、何か言いたそうにした。そんな様子に首を傾げると、また彼はため息をつく。
    「たとえばあなたは、血雨探花から一緒に湖に潜ろうと誘われたとして、他人にその役を任せるんです?」
    「まあそれは、場合によっては仕方ないだろう?」
     私の答えが意にそぐわなかったのだろう。慕情は口を尖らせて黙ってしまった。しかし、三郎のたとえが出てくるということは。
    「公務の話じゃないってことか? 風信と湖畔へ遊びにでも行くのか?」
    「ええと……」
     その顔が是と言っていて、思わず頬が緩んでしまう。私からすれば、二人が水辺でばちゃばちゃやっているなんて、微笑ましいことこの上ない。できるなら、昔からそう仲良くしてくれればよかったのに――いや、仲良くされ過ぎても困ってしまうか。
     らしくもなくもじもじと俯いて。一緒に出掛けるというだけの話で、こんなに恥じらわれてしまっては堪らない。一体どんな湖畔に出かけるつもりなんだ。湖畔で何をするつもりなんだ。いや、まあいい。あまり人のことを言える立場ではないのだし。
    「なんにせよ、慕情なら泳ぎも潜りも、慣れれば人並み以上にできるようになるんじゃないか?」
     慣れれば、とつぶやいて慕情は茶をすすった。しばらく気まずそうに視線をうろつかせ、やがて「帰ります」とつぶやく。本当にこれだけの為に来たのかと、驚きを禁じ得ない。扉に手をかけながら、ぼそりと、私でなければ聞き逃すような声で彼はこうつぶやいた。
    「あなたは、肺活量に関して困ったことはないと」
    「肺活量?」
     聞き返せば、首を振る。いえなんでもと言われれば、深追いしようとは思わない。誰にでも聞かれたくないことはある。何がそんなに深刻なのか、さっぱり分からないけれど。



    ――昼下がりその後、仙京にて
     まったく傑卿の冷たさには呆れてしまう。まあ、彼女に約束を不意にされたお陰で、今こうして珍しい相手と酒を酌み交わしているのだが。白い指が杯を持って、そろそろ口に運んでいく。
    「口に合うようでよかったよ」
    「はい、美味しいです」
    「しかし、それくらいにしておいたらどうかな」
    「あっ」
     彼――玄真の手からするりと杯を取り上げ、残りを煽った。どこか残念そうな顔をいているが、仕方ない。あとで風信と会う約束をしていると言っていたのに、あまり酔わせては後が怖いじゃないか。
     それにしても、南陽将軍は一体何をしているのだろう。先ほど通りで鉢合わせた時の、どこか思いつめた表情。あれを見て、男として憤慨せずにはいられまい。こんなにきれいな恋人を思い悩ますなんて、言語道断。
    「玄真、君は何に思い悩んでいるんだ?」
     話してごらんと微笑むと、困ったように彼は苦笑して俯いた。ううんと唸って、私の方をゆらゆらした瞳が見る。
    「悩んでいるというか、なんと言うべきか……無知でいるとはこういうことかと、近頃は思って」
    「無知? 君が?」
     こくんとあっさり頷いた。驚きだ。多少丸くなったとは聞くが、それでも彼はあの玄真将軍なのである。
    「惚れた腫れたとは、あまりに今まで無縁で、その――まさか肺活量が必要、だったなんて」
    「……え?」



     浮き出た喉仏が滑らかに上下し、つうと口端から水が一筋こぼれた。拭いてやっては、また水を飲ませる。ぐったりした慕情にそれを繰り返してしばらく。
    「ちょっとは落ち着いたか」
    「……まあ」
     火照った頬と目がどこか虚ろなまま。まさか、本当にただ逆上せていただけだなんて思いもしなかった。
    「しかしまあ、何事も無くてよかった」
     そう言ってしっとり濡れた旋毛を撫ぜると、気持ちよさそうに目を細める。ふうっと漏らす息がまだ熱い。こんな考えはよくないと思うが、弱った慕情というのは貴重なものだ。しおらしい態度も、何もかもしっかりと目に焼き付けたい。頬に、鼻にと口づけを落とし、顔色を窺った。
    「にしてもだ、何か考え事でもしていたのか? お前らしくもない」
     慕情は答えない。顔が歪んだので、聞こえていないわけではない。まあ、言いたくないのなら構わないか。そう気分を切り替えて、白いうなじに掌を這わせた。口づけがしたかった。
    「ん……」
     この愛しい、いかにも何も知らない口づけが。唇を合わせてしばらくそのままにしていると、段々と口元が震えてくるのだ。それで俺は、いつも笑ってしまう。
    「な、慕情。いい加減、息継ぎくらいできるようにならないのか?」
     顎に丸めた指先をひっかけ、親指で頑なな唇を突く。僅かに開いた隙間から、赤い舌がちらりと覗いた。同じように、また火照っていく頬を眺めて、頭のどこかが満たされていく。すうっと慕情は、大きく息を吸い込んだ。不器用に引き結んだ唇が、こちらへ向かってくる。ちょんちょんとその唇を舌でつついては、宥めるように頭を撫でた。いつまでもいつまでも、夜は訪れそうにない。
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