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    soryu17setsuna

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    soryu17setsuna

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    ただの伏乙妄想。出しゃばらない程度にモブが出る。

    お題【ほのぼの】休日の商店街に買い出しにやってきた伏黒。人の多さに疲れて広い公園に避難しにきた時、公園の入り口に見覚えのある背中が見えた。

    整った黒髪のショートカット。すらっとしたズボンにゆったりとした白の制服。乙骨先輩だと気づいた伏黒は声をかける。

    「あっ、伏黒くん!」

    聞き覚えのある声に嬉しそうに振り向く乙骨。だがその胸には驚きのものが抱えられている。子供だ。しかも赤子の。

    「あ、え?先輩?いつの間に子供を…?誰との…?」

    「何言ってるの伏黒くん…」

    驚きを隠せない伏黒にかなり引いた顔をしている乙骨。

    「違うよ?この子は助けたお母さんの赤ちゃんだよ」

    乙骨が伏黒にいきさつを説明する。任務の途中、突如現れたターゲット外の呪霊。付近にいた母子が襲われかけていたところを乙骨が助け出した。だが突然得体のしれない呪霊に襲われた母親は気絶してしまったらしい。放置されてしまった赤子をそのままにできず、だがどう宥めていいかもわからず補助監督に助けを求めて2人を運んだようだ。幸い母子共に怪我はないが母親は相当なショックからかいまだ目覚めず補助監督がめんどうを見ているということだ。

    「さすがに監督の方も2人同時には見れないから代わりにお母さんが目覚めるまで僕が赤ちゃんのめんどうを見てるってわけ」

    乙骨に大事そうに抱えられた赤子は落ち着いていて泣くこともせず乙骨の制服を掴み、ぼーっと伏黒を見つめている。

    「この子の名前わからないんだ…洋服に書いてないかなって調べたけど書いてなくて。さすがにお母さんの所持品勝手に調べるわけにもいかないからわからないままなんだけど。多分男の子だよね。目がツンとしてて伏黒くんにそっくり」

    「赤子と一緒にしないでください」

    えー、可愛いのにと聞き流す乙骨は赤子の頬をぷにぷにと触ると可愛いと顔が綻ぶ。ゆっくりと左右に揺さぶり赤子をあやかす乙骨は突然動きを止め、ため息をつくと伏黒を見つめる。少しだけ不安そうな顔。

    「僕、こういうお世話したことないからどうすればいいかわからなくて…大人しいけど何も反応してくれないから不安で…これで大丈夫なのかな?」

    「大丈夫なんじゃないですか。泣き出さないってことは安心してるんだと思いますよ。どこか連れ出したら喜んでくれるかもしれません」

    「そっかあ。じゃあ公園散歩してみようかな。伏黒くんも一緒にどう?1人じゃ心許なくて…でもお母さんと離れたらお母さん探して泣かないかな」

    「俺でよければ。まあ泣かれたら戻ってくればいいだけです」

    「そうだよね。じゃあ散歩してきますって監督さんに伝えてくるね。待ってて」

    そういうと乙骨は補助監督が乗っている車まで赤子と共に向かった。

    あの赤子、先輩に抱かれて居心地いいだろうな、羨ましい。

    ついに赤子にまで嫉妬してしまっている自分が馬鹿馬鹿しくため息を吐く伏黒。乙骨の服をずっと握ったままの小さな手。好きな人を抱く感触は自分だけが知っていたい。でも相手は赤子。敵意など向けられないしそんなことしたら先輩に嫌われること間違いなし。乙骨が戻ってくるまでに深呼吸して乱れた心を整える。  

    「伏黒くん、お待たせ。まだお母さん目覚めてないみたいだから行ってきてもいいって。行こっか、散歩」

    赤子を抱いたまま戻ってきた乙骨は伏黒の隣に立つと並んで歩き出す。公園の整備された道をゆっくり歩く2人。朗らかな春の風が心地よい。乙骨に抱かれた赤子は表情に変化はないもののたまに周りをキョロキョロとして流れる景色を眺めている。あったかいね、お水がきらきらしてるねと声をかけ赤子をあやす乙骨。先輩の目が常に赤子を見ていてちょっとだけ疎外感を感じて複雑な気持ちになる伏黒。再び顔を上げ空を見上げる乙骨がぽつりと呟く。

    「夫婦ってこんな感じなのかなあ」

    「はっ?!」

    突然夫婦などという言葉が出てくるものだから伏黒は驚いて吹き出してしまった。

    「ご、ごめん!変なこと言って…でもなんかこうして伏黒くんと一緒に散歩してるとなんだか嬉しくて…この子がいるからかなっ!?なんか夫婦になったらずっとこんな幸せな気持ちで生きれるのかなって、思って…」

    伏黒が驚きが乙骨に伝わってしまい乙骨まであたふたと焦りながら言葉の真意を明かす。重さでずり落ちた赤子を抱え直すと赤子の頭を撫でる。撫でられた赤子は気持ちよさそうに目を閉じた。少し顔を赤くし赤子に向かって微笑む姿がまるで赤子の母親のようにも見えてくる。優しい眼差しに心を打たれる伏黒。

    「それは俺と結婚して子供が欲しいってことですか?」

    それは無理だよ。とすぐに返答し苦笑いする乙骨に少しだけガッカリしてしまう。

    「たまに不安になるんだ。僕は男だからもし結婚したとしてもドレスは着れないしどんなに愛しても君との子供もつくれない。こんなので伏黒くんは幸せになれるのかなって」

    歩みを止めると俯く乙骨。赤子を抱く手が少し震えている。先輩、俺といつか離れ離れになると思っているのか。それが怖いのだろうか、そんなことするつもりもないのに。

    「俺は物心つく前から母親の記憶はほとんどないし、父親は他人の女と蒸発。そんな俺でも先輩を好きになることができたし愛してる。夫婦とか正しい形じゃなくたって俺は幸せだしそれでいいと思ってます」

    不安そうに伏黒の言葉を聞いていた乙骨の目が見開いていく。黒い眼差しに光が差す。

    「その気持ちは僕もわかる気がする。そうだよね。僕らの幸せは僕らだけが理解できればいいよね。」

    「その通りです。俺達が満足できれば他なんて関係ないし誰にも邪魔させない。先輩との子供ができなくたって構わない。俺は先輩さえそばにいてくれればそれだけで生きてる価値あります。それに俺は先輩にドレス着て欲しいです」

    「伏黒くん…いやドレスは着ないよ?」

    バレたか…さりげなく言ってみたのに。苦笑いする伏黒。

    「でもよかった。僕たちはやっぱり似た物同士なんたね」

    伏黒を真っ直ぐ見つめてニコッと笑う先輩の姿が眩しい。

    「見て…伏黒くん。赤ちゃん、寝ちゃったみたい。僕の声うるさくなかったかな?」

    「むしろ子守唄のように聞こえてたかもですね」

    乙骨の胸に頭を預けた形ですやすやと眠る赤子。赤子からしたら乙骨は初対面のはずなのに緊張も警戒心も全くなく赤子にとって乙骨はかなり安心できる存在だったようだ。

    そうだといいな。囁くように呟いた乙骨は赤子の口から垂れた涎をよだれかけで優しく拭き取る。くすぐったいのか顔をしかめる様子にまた可愛いと微笑む。

    「僕、この子のお母さんみたいだね」

    たしかに赤子を抱っこし嬉しそうに世話する姿は母親そのものだ。だが伏黒にはそれ以上に見えていた。

    「むしろ聖母でしょ…」

    ボソリと呟く声にピクッと反応した乙骨がなんか言った?と聞き返すがそれを言ったら流石に怒られそうなので黙っておくことにする。

    「ところで赤ちゃんは寝ちゃったみたいですしどうしますか?そろそろ戻りますか」

    「そうだね。もしかしたらこの子のお母さん起きてるかも!戻ろう」

    来た道を振り返り、戻る。行きよりも清々しい気持ちで心がはずむ。公園入り口の駐車場にたどり着くと車の外に補助監督と赤子の母親が出てきていてこちらを見つめていた。

    「あっ!お母さん気が付いたんだ。よかった〜!赤ちゃん返してくるね。伏黒くんちょっと待ってて」

    そう言うと乙骨は足早に母親たちのもとへ向かう。待てと言われた伏黒は1人取り残され乙骨を視線で追う。赤子と再会して嬉しそうな母親ににこやかに笑う乙骨と補助監督の姿を遠目に見守る伏黒。乙骨が赤子を母親へ渡そうとすると赤子に掴まれたままだったらしい服が伸びる。楽しそうな笑い声に見える情景が少し霞む。あんな光景に懐かしさなどないはずなのに。3人で少しだけ会話して深々と頭を下げた乙骨は用件が終わったのかこちらに向かって走ってくる。

    「ごめんね伏黒くん。待たせちゃって。行こっか」

    「えっ、先輩任務終わったんでしょ帰らなくていいんですか?」

    「そうだけど、あのお母さん大変な目に遭って疲れてると思うし送ってもらうようお願いしたんだ。だから僕はもう自由行動。…伏黒くんと一緒に帰りたいな」

    少し俯き目線だけこちらに向ける先輩。お得意の上目遣いで誘ってくる。断らない理由なんてない。

    「勿論、構いません。でもお疲れじゃないですか?」

    「大丈夫!僕はまだまだ元気いっぱいだよ!それに伏黒くんと一緒にいると幸せな気持ちになるから…少しでも一緒にいたいな」

    手をもじもじとさせながら見つめてくる先輩に滾る気持ちが抑えられなくなりそうだ。

    「わかりました。じゃあ行きましょう」

    2人は隣に並び顔を合わせると同じスピードで歩き出す。

    「そう言えば赤ちゃんの名前、ゆうまくんって言うんだって」

    「聞いたんすか」
     
    「うん、だってあんなに大人しくて懐いてくれたのに名前知らないのはあんまりかなって」

    もう2度と会わないかもだけど、と寂しそうに言う姿に本当にあの赤子が好きなんだなと思う伏黒。

    「ゆうまくん、いつかお母さんを守れる頼もしい子に育ってくれるといいなあ」

    「なれますよ。先輩に抱かれたんだから」

    「そうかな?」

    「そうですよ。俺も先輩と繋がってると元気になります。いろいろと。先輩にはきっとみんなを元気にするパワーがあるんすよ」

    「そうだと嬉しいな。伏黒くんにも元気を与えられる存在になりたい!」 

    「…手、繋ぎます?」

    「えっ?え〜っと、そうだ!伏黒くん買い物の途中だったんだよね!どこ行くの?早く行こうよ!」

    繋ごうとする手をするりと抜けてそそくさと先回りする乙骨。顔を赤らめてぎこちない言い訳をする姿が子供っぽくて可愛らしい。先輩はどうやらまだ人前で手を繋ぐのは恥ずかしいようだ。あんなに夫婦のような関係を望んでるのに手も繋がせてもらえないなんてまだまだだなと思う伏黒。

    いつか誰もが認めてくれる関係になりたいと思いながら休日の賑わいに溶けていく2人だった。
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