お題【2人の時間】今日はデートで外出した伏乙。普段任務で疲れてる乙骨を案じて部屋デートばかりだったため久々の外出にテンションが高い2人。ショッピングモールで伏黒が乙骨に洋服を選んだりゲーセンで熱狂し取れないのにお金を使いまくる乙骨を心配する伏黒。

「今日は呪術師なんて肩書き忘れて伏黒くんとずっと一緒にいれるんだからこんな幸せなことはない」

とびっきりの笑顔で話す乙骨に心の底から楽しいんだろうなと嬉しくなる伏黒。
部屋で2人きりのときは、部屋という安心感からか伏黒に密着していることが多い乙骨。甘えてくる嬉しさを噛み締めつつもそこはかとなく任務の疲れが顔に出ていて自分がそばにいるだけでは完全に癒してやることはできないのだと悔しい思いでいた。いつもと違う刺激が欲しい。そしたら乙骨先輩も楽しんでくれるかもしれない。だから思い切って買い物デートを誘ってみたのだがそれが功を奏した。

フードコートでご飯がてら休憩していると乙骨のスマホに高専から連絡が入る。席をから少し離れた場所で電話している乙骨。ガヤガヤと賑やかな声にかき消され乙骨の声は聞こえないが肩を落とし戻ってくる姿に今日のデートが強制的に終わることを理解した伏黒。

「今行けるの僕しかいないんだって。もうこっちに補助監督さん向かってるみたい」

あからさまに声のトーンが落ちてため息を吐く乙骨。呪術師である以上、急な任務は仕方ないことだがよりによって今日かよ…伏黒は小さく舌打ちする。せっかくの楽しいデートなのに行きたくないと駄々をこね始める乙骨。テーブルに突っ伏しふて寝する。そんなに嫌なら断ればよかったのに。言葉が頭をよぎる伏黒。

いや、乙骨先輩の性格からして絶対にそんなことはしないだろう。この人は他者の為に自分を犠牲にできる人だから。だが今先輩は俺との時間がなくなるのは嫌だと抵抗してくれてるのだ。本当は俺に引き留めてほしいのかもしれない。俺だって一瞬たりとも愛しい人と離れたくない。ずっとそばで抱きしめて、その体温を感じていたい。ただでさえ忙しい先輩と一緒にいれる時間は限られているのに。でもそれでは不平等に人を助けるという己の信念とも違えてしまう。呪術師である以上抗えない運命。

どんな表情をしているのか。切ない頭を撫でながら慰める。

「先輩、今日のデートは打ち切りになってしまったけど生きてる限りいつでもできますよ。また計画しましょう」

無言で突っ伏したまま聞いているらしい乙骨。しばらくすると顔を上げる。その瞳は潤んで不満げだ。

「でもこういう仕事をしているからこそ必ずしも生きて帰ってこれるとは限らないじゃない。もちろん自分勝手な呪霊なんかに負けないよ。だけど今この時間は今しか味わえない物なのに…」

言いたいこと言ってまた突っ伏してしまう乙骨。ちらりと見える太めの眉がわかりやすく八の字を表している。こんなに不貞腐れている先輩は初めてみた気がする。ここで一緒に逃げましょう。なんて言えたら最高にかっこいいシーンになるのだろうか。そんなことは言えない伏黒は黙ったまま乙骨の頭撫で続ける。

ふと乙骨の脚が伏黒の脚に触れ、絡みついてくる。あまり人前で甘えたがらない先輩の精一杯の甘えだろうか。強く絡みつく脚から伝わる圧迫感が愛おしい。自らの脚も乙骨の脚に絡める。こんな幸せな時間、終わってほしくない。

そんな時間を遮るようにまた乙骨のスマホが鳴り響く。気怠そうに起き上がると今度は席を離れないまま電話に出る。数回の返事だけしてすぐに電話を切るともう行かなきゃ立ち上がる。

「荷物は俺が部屋に運んどきます。お気をつけて」

ありがとうと言う乙骨は伏黒の指に自らを指を絡めぎゅっと握りしめる。柔らかな微笑みで行ってきますと言うと愛おしそうに握る指がスルッと離れ真面目な表情に変わった乙骨は場を後にする。

ひとり取り残された伏黒は黙ってその背中を見守る。ここが2人きりの場所なら優しい口づけで見送れるのだろうが今はその愛しい唇もお預けだ。

今夜中に帰ってきたら時間の許す限り甘えさせてあげよう。

テーブルに放置されたままの紙ナプキンを掴むとグシャっと丸め、決意する伏黒だった。