お題【色彩】商店街まで買い物デートしに来た2人。都会の喧騒に疲れた乙骨が休みたいと言うので近くの公園にやってきた。広いエリアの一角にあったベンチに座りつつ、1番目立つところにある大きな鯉のぼりをボケーっと見つめる乙骨にそこまで眺めるほどかと不思議がる伏黒。何がそんなに珍しいのか尋ねてみる。

「え〜と、もう鯉のぼりの季節なんだなと思って…先月は桜が綺麗だったのにね」

時の流れはあっという間だなと笑う乙骨に先輩と過ごした日々を思い浮かべる伏黒。

「桜の時期は何処か連れてってほしいと言ってましたよね」

「そうだったっけ？伏黒くんとならどこへ行っても楽しいよ」

頭を伏黒の肩にコテンと乗せると少し照れくさそうに頬を染める乙骨。甘えてくる先輩の姿が可愛らしくて自分も頭を寄せる。

「伏黒くん僕ね、去年の今頃までは里香ちゃんに脅えて自分の殻に閉じこもってたから周りを見る余裕なんてなかったんだ。自分を守る事で一杯一杯で世界は真っ黒で何にも見えなかった。でも皆に協力してもらって里香ちゃんを解放して、それからいろいろあって伏黒くんと出会ってようやく自分以外の世界が見えるようになってきた。世界はこんなにも色鮮やかですぐに移り行ってしまうんだね」

乙骨は伏黒の手に自らの指を絡ませると手のひらを行ったり来たり動かす。その感触がくすぐったくて弄ばれていることに気づいた伏黒は指を掴まえてギュッと握りしめる。

「どんなに世界の色が変わろうが俺と先輩の色は変わらないし同じ色ですよ」

「うん、そうだね。伏黒くんが離さないでいてくれる限り、僕らは同じなんだ。混ざり合って僕らだけの色を生み出すんだね」

握った手から乙骨が強く握り返してくる感触が伝わる。そう、混ざり合ったら2度と元の色には戻らない。自分たちはそういう関係なのだと思う伏黒。

「でも僕はこれからもいろんな景色を見たいな。春の色、夏の色、秋に冬。季節の移ろいを伏黒くんのそばで感じていたい」

そういうと空を泳ぐ鯉のぼりに手を伸ばす乙骨。

「空を自分のものにして泳ぐ鯉のぼりみたいに僕らも自分達だけの世界でずっと一緒にいれたらいいね」

立ち上がり前に飛び出す乙骨の手に引っ張られるまま立ち上がる伏黒。

「行こう伏黒くん。僕達の世界を広げに」

笑顔の乙骨が見つめる先には新緑の眩しい世界。まだ若い自分達にお似合いの色だと伏黒は思う。だが俺の目指したい色は深緑の樹海。誰も邪魔できない、俺達だけの世界。そこに辿り着くまでは絶対に先輩を離さない。

黒い決意を胸に明るい世界へ飛び出す。

「…ところで、かっこいいこと言ってますけど俺達の世界を広げるってデートの続きってことですよね？そしてそれは人混みの中で先輩にいちゃついても自分達の世界だから問題ないってことですね？じゃあキスしても───」

「そんなことは言ってません！現実に引き戻さないでよ」

伏黒なら言葉を遮り、顔を真っ赤にして1人で先に行ってしまおうとする手を力一杯引きバランスを崩した乙骨を抱きしめる。

「言ったでしょう離さないって」

「言ってないよ！ここ公共の場だから！」

腕の中をジタバタと抜けようとする乙先輩を逃すまいと強く抱き締める伏黒は頬にキスをすると途端に大人しくなる乙骨。

「……そういうの、後にしようよ」

腕の中で恥じらいながらそっぽを向く先輩が可愛らしくてもう一度頬にキスをする。

「そうですね、早く帰りましょう。今日はもう先輩の中まで染め上げたくて仕方ないです。染まりきるまで何度だってしますから」

「それって、夜の話？えええ〜…」

耳まで紅くなってしまった乙骨を手を引き帰宅を急ぐことにした伏黒。

今夜は楽しくなりそうだ。