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    nok_0000xxxx

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    或る村の劇場私は、それを、終生忘れることがないだろう。
    病によって黒く肌を染めた亡骸が、吊るされ、磔られ、飾られ、教会という劇場を踊る様を。
    その奥、祭壇の前に腰を掛けてにこやかな弧を唇に描く男の姿を。
    「希望を」
    砂糖水のような、甘やかさと涼やかさを備えた声が、教会に反響する。
    「描きたかったんだ。病の恐怖と嘆きに震えるこの地にも」
    男が立ち上がる。私は蛇に睨まれた蛙のように動けない。背後に引き連れた若者達は、ヒ、と声を漏らしたり、情けない悲鳴をあげて逃げ出したり、散々だ。一歩、後退る者もいた。
    「可憐な面差しも、精悍な顔立ちもいい。美しいものは大好きさ。それでも、もっとも美しいのは」
    男が、佇む一つの亡骸を腕に抱いた。軽やかな足先は、それを抱えたまま優雅なステップを踏んで踊る。
    「希望! これは亡きひとびとの希望の面影、これこそボクの傑作さ。ボクの導きを信じ逝った皆の、夢のカタチ」
    死人と踊る男を見ていると、不思議とそこかしこに飾り付けられた亡骸達も思い思いに舞踏会を楽しんでいるかのように見えてくる。
    貧しい村の、病に滅んだ村の、それでもこの病が晴れる頃にと望んだ賑やかな催し事。それを、再現した亡骸の劇場。
    ああ、ここは死者の楽園なのだ。幸福の村。エデン。ああ、ああ。

    火を、火を!
    私は叫んでいた。でなくば、この劇場に囚われると怯えたのだ。恐ろしい。恐ろしい。
    男は間も無く捕らえられ、磔られ、胸を穿たれたのちに火刑に処された。
    全てが終わってから、私は教会のついでに村を焼き払い、そして去った。

    死体を確認すべきではなかったか。
    そう考えた時には、もはや村を舐める火は遠かった。
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