やっぱりやめた。 見透かされたその時に、ようやっとソイツの存在に気が付いた。厄ネタはいつでも人生と共にあり、今日も俺を生かしていたのだと。
脈を打つ。今ならこれが、死に損なっていた原因なんだと理解できた。反魂の神器。シノビガミへ至る欠片。そりゃあ殺されかけても生き残って、死ねなくて。たぶん、一番手酷く俺を殺し損なってくれたヤツが欲しかったものだろう。
もう少し早く気が付いていたらば、どうだろう。くれてやってもよかったかな。俺は別に、コイツでやりたいこともなかったから。
クセでポケットにタバコを探し、すぐに引っ込めた。流石に服屋で吸うほど常識がないわけじゃない。習慣ってのは恐ろしいや。
「ラッド。どっちの色がいいかな」
「あ〜……白。そっち」
「意外。きみ黒とか赤とか好きそうなのに」
「男の服はなんでもいいからそうなるだけ」
目の前で、小さな相棒が小首を傾げる。
「じゃあ本当に、考えて選んでくれてるんだ」
「一応な。ま、カワイイとかきれいとかはよくわからんが」
「まぁ、そうだよね」
「そー言われるとムカつくぜ……」
なんて、他愛無いやりとりがなんだか妙におかしく、ふたりして笑う。死に損なわなければ、服屋で年頃の女子の服を選ぶなんてこともしなかったろうしで、余計に愉快な気がした。ああ。
やっぱやめた。くれてやらねえや。勿体ねえ。
今まで過ごしたことのない時間に身を置くと、ガラにもないが。もう少しこの心臓と付き合ってやってもいいかなだとか、そう思うのだ。