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    saruzoou

    @saruzoou

    さるぞうと申します。
    🐉7春趙をゆるゆると。

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    saruzoou

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    6月30日JBF春趙オンリー「一趙一短」新刊のサンプルです。
    付き合って別れてを繰り返していた二人。ある別れ話の後に、趙が姿を消してしまい…というお話です。最後はもちろんハピエンですが、サンプルは不穏な内容になっていますのでご注意ください。
    これを🐉8クリア後すぐに書いたのでメンタルぐだぐだでした…。

    【サンプル】ハネムーンを君と異人町のはずれ、あまり治安の良くないエリアにある中華料理店「佑天飯店」。
    およそ店の入り口とは思えない無愛想な扉の奥には暗く狭い階段が地下に続いており、そのどん詰まりにある扉を開けてやっと店にたどり着く。
    昼時を過ぎた店内に客の姿はほとんどない。
    店のオーナーであり、料理人でもある趙天佑は、最後の客を送り出して「ありがとね」と声を掛けた。
    そして、扉に『準備中』の札を掛けると店内へと視線を向ける。
    視線の先で黙々と料理を口に運んでいるのは、界隈では「ハマの英雄」としてすっかり有名になり、この街の顔にもなった春日一番だ。
    客は春日の他に誰もおらず、従業員も帰っていた。
    趙は視線を向けたまま、春日の座るテーブル席ではなく、カウンター席に腰を下ろして食事をする春日を眺めていた。

    こりゃなんか言うつもりだな。

    趙の視線を痛いほど感じながら、春日は気づかぬふりで料理を口に運ぶ。
    今日のメニューはチャーハンとレバニラ炒め、餃子にスープも付いている。
    味はいつもと変わらず美味しい。
    春日は趙の思い詰めたような視線を受けて、異人町に来てからのことを思い出していた。
    春日が運命に翻弄されるように異人町に辿り着いて数年。趙と付き合うようになってからも、そのくらいの年月が経過していることに今更ながらに気づく。
    春日が世話になっていたソープランドの店長の死について究明する中で、春日とその周囲を取り巻く人々の運命が大きく動き出し、趙とはその渦中で出会った。
    のちに仲間となって春日を支えてくれ、その後色々とあって体の関係も伴う恋人となったのだ。
    ずっと親父と慕ってきた人の背中を追い続け、刑務所暮らしも長い春日は、特定の誰かを心から好きになったり、そこまでいかなくとも誰かと付き合ったりという色恋に夢中になった経験もなかった。
    正直に『恋愛経験がほとんどねえ』と告げれば、趙は目を丸くして、そのあと少し照れたように『あれ?俺もないかも?』と言ったのだが、あれは本当に可愛かった。
    同性の、元極道と裏社会のマフィアのボスだった男が付き合うことになり、お互い戸惑いの連続だった。それでも基本的に穏やかで幸せな時間を過ごして来たつもりだ。
    しかし、それがよくなかったのかもしれない。
    いつからか、趙が明らかに『こんな幸せが長続きするわけがない』と思っていると感じるようになってしまった。
    春日がいくらそれとなくなんの問題もないんだと仄めかしても、態度や行動に諦めに似た切なさが滲むようになっていた。
    『記念に』『思い出に』。
    趙はよくそう言ったけれど、それは別れた後を想定してのことだろう。
    春日が堅気の仕事に就き、表社会の人間になっていくにつれ、趙は距離を取ろうとするようになっていった。
    それを宥めすかして、時には叱って、なんとか関係を続けてきたけれど。

    そんなことを考えながら料理を口に運んでいたら、いつままにか食べ終わってしまい、綺麗に空になった皿にカチンと箸の当たる硬い音が響く。
    そして、その音を合図にして、趙は春日が食事を終えるのを待ち構えていたように口を開いた。
    「…もう無理じゃない?」
    乾いた趙の声と言葉に、春日は手にした箸をぴくりを揺らす。

    ほら来た。

    予想していた言葉に、春日は内心ため息をつく。
    ここ最近、すれ違いは続いていた。
    繁忙期に入って仕事が忙しく、こうして佑天飯店に食事に来たのも久しぶりだ。
    たまに会えても食事を一緒にするのがせいぜい。朝早くから出社する春日のため、遅くまで一緒に飲む機会も少なくなった。
    そもそも、平日の昼間に働く春日と、飲食店のオーナー兼料理人である趙の自由な時間は重なりにくいのだ。
    それでもなんとか約束を取り付け、久々に顔を合わせても会話はぎこちないことが多く、それを誤魔化すように早々にホテルへ行って抱き合うということが多かった。
    会って顔を見られると嬉しいし、愛しさだって込み上げてくる。
    休みの日にはどこにも出かけず、体のどこかをくっつけて、ただダラダラと過ごしたいと思うこともある。
    けれど、店のことと総帥を降りたとはいえ横浜流氓を見ている趙は忙しく、わがままを言ってはいけないような気がしていた。
    遠慮していた面はあったと思うし、趙の漠然とした不安ときちんと向き合っていなかった自覚もある。
    けれど今日は、とても疲れていて。
    ここに来て、趙の作ってくれた飯を食って、その顔を見れば、また明日から頑張れると思っていたのに。

    そう思うと、身勝手な苛立ちと焦燥感が込み上げて、春日は店内にちらりと目線を向けたあと、面倒くさそうにため息をついて、空になった皿に箸を放り投げた。
    食事の後はいつも手を合わせて「ご馳走様でした」と律儀に告げる春日の粗雑な仕草に、趙はどこか痛いような顔をして目を伏せる。
    春日は「またその話か」と言わんばかりのうんざりとした態度を隠すことなく見せつけ、テーブルの端にあった灰皿を引き寄せ、煙草に火をつけ大きくひと吸いした。
    「…お前がそう思うんなら、そうなんだろうよ」
    口からまろび出た言葉は、自分で思っていた以上に、乾いたものだった。
    何度も何度も繰り返されてきた、このやりとりに惓んで、観念したように吐き捨てられた言葉は、きっともうずっと趙が求めていたものだ。
    「…投げやりだなあ」
    「お前が言わせてるんだろうが」
    一瞬、大きく瞳を揺らした趙が苦笑しながら呟くと、春日は絞り出すような声でそう吐き捨てた。
    「…まあね」
    掠れた声でそう呟いた趙の顔を、春日は見ることが出来なかった。
    本当は否定するつもりだった。
    何が無理なんだ。
    無理なんてことは何もない。
    趙が切り出す別れの言葉はいつもこんな感じだ。
    「他に好きな人ができた」とか「もう好きじゃない」とか、そういうことは一切言わない。
    「無理だ」「別れた方がいい」「もっといい相手がいる」など、今まで繰り返された言葉を思い思い出しても、趙の気持ちが離れていないことがわかるだけに、春日もどうしていいのかわからないのだ。
    ただ、あんな投げやりな言葉が転がりでるくらいにはこのやりとりに疲弊していたことに今更気づく。
    本気で別れるつもりも手放すつもりもないが、一度離れて、頭を冷やした方がいいのかもしれない。

    あっという間に短くなった煙草を揉み消し、二本目に手を伸ばそうとして、春日は僅かな逡巡の末にポケットにしまう。
    そしてかわりに財布を出そうとする手を、趙はやんわりと押し留めた。
    「今日は奢りだよ」
    「…最後だからか?」
    真っ直ぐに目を見て春日が告げた『最後』という言葉に怯みつつも、趙は誤魔化すように目を細めて笑うにとどめた。
    その表情を探るようにしばらく見つめたあと、春日は聞こえよがしにため息をついて立ち上がった。
    「…じゃあな」
    「うん。元気でね、春日くん」
    まるで明日も会うかのような、軽い調子で挨拶を交わし、春日は振り向きもせずに店を出た。


    くっついて別れてを繰り返し。
    今回も、それだと思ってた。
    ほとぼりが冷めた頃に連絡をして抱きしめて好きだと言えば、またいつも通りだと。
    でも違った。
    甘かった。
    趙が、消えてしまった。


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