あの日 我ながらどうしてしまったのか。
エンジョーダ社屋の自室に戻り扉を開けながらマイガーは大きく息を吐いた。
後ろには先ほど出会ったばかりの金髪の青年が立っていて、所在なさげに周囲を見回している。
「入っていいガオ。ここは俺の部屋だから」
「……お邪魔しますっショ」
青年がおずおずと足を踏み入れるのを待って、マイガーは扉を閉めた。
ため息の理由はこの青年である。
岩場でサウナのための石を採掘にしていたところ、コソ泥として侵入してきたのが彼だった。
あっけなくブロッキンたちに捕獲された。捕獲された後は当然何かしらの制裁が待っている。それを知っていたマイガーは考えるよりも先に飛び出していた。
必死すぎてどんな言い訳をしていたか自分でも覚えていない。
だけどこの青年を見殺しにはできないと、本能が叫んだのだ。
「さっきはありがとうでショウ……えーと、」
そういえば名乗ってすらいなかった。
マイガーは頭を振り、一旦思考を落ち着かせると青年に向き直った。
「マイガー。よろしくガーッド」
「オレはショウ。よろしくでショウ」
ショウと名乗った青年はふにゃりと笑った。
元々タレ目ではあったが、笑ったことによりいっそう目尻が下がり穏やかな表情になる。
マイガーが所属しているエンジョーダ社にいるのは、上司である御羅院、現場の士気をあげるための厚目ニク。あとは同じ顔のブロッキンたち。
ショウのような笑顔を見せる者はいなかった。
けれど──
遠い昔にどこかで、この笑顔を見たような気がした。
(俺は……この笑顔を、知っている?)
マイガーは数度瞬きをしてショウを正面から見て、それから、またふるふると頭を振った。
もしかしたら以前に侵略をしたどこかの村で似たような人間を見たのかもしれない。きっとそうだ。
そう言い聞かせて「何でもないガーオ」とショウに右手を差し出した。
「さっきは本当に助かったっショ。マイガーは命の恩人、神様でショウ」
差し出した右手を強く掴まれて、またショウがふにゃりと笑う。
神様でショウ──
ショウの言葉にマイガーはまた記憶の奥底を掻き混ぜられた気がした。
他意はない。命の恩人だと言っている。それ以上でもそれ以下でもなく、言葉の比喩表現だ。
けれども何故か胸の奥がモヤモヤとする。
柔らかい金色と紫立ちたる淡い雲。
少し騒々しい。
それでいて居心地のよいような、時々は不快であったような…………
きっと、いつかのうたたねのときに見た夢を、思い出しているだけなのかもしれない。
マイガーは少し息を吐きながら笑うと、顔を上げた。
「とりあえず今夜はここに寝てもらうガーオ。布団は一組しかないから……狭いけど我慢するガオ」
「これくらい余裕っショ! 納屋で寝たり洞窟で寝たのに比べたら有り難すぎでショウ」
口角を上げて屈託なく笑うショウにつられるように、マイガーも口の端を上げる。
「でも毎晩ふたりで寝るのは勘弁ガーオ」
「じゃあふたりで家でも買うっショ」
「い、いえ!?」
「ローンもふたりで返済すればあっという間でショウ」
ショウがどこまでが本気で言っているのかマイガーにははわからなかったけれど、仮に本気だったとしてもそれはそれで面白いかもしれない。
社屋の中の一室ではなく自宅で。
一組の布団でくっついて寝るのではなく。
ショウと笑い合えたら楽しいかもしれない。
そんなことを思ってしまっていた。