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    poskonpnr

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    前にツイ~~トしてたやつ 不眠のかいとと弟 ※7年後、やや年齢捏造

     モニターに向かっていると思わず舟を漕ぐことがあるのだが、そのくせ夜はいつまで経っても眠気が訪れなかった。枕を変えてみたが、そもそもそう何個もいっぺんに比較できるものでもないため、いまいちよく正解が分からない。アイマスクを試してみるが、瞼の裏のもやが鬱陶しくて気が散る。周りの騒がしさは気になっていないので耳栓も大した用を為さない。
    「ハルト、一緒に寝てくれ」
     カイトは父のいないタイミングを狙い、意を決してそう弟に頼み込んだ。特段父に聞かれてまずい理由はない。なんとなく気恥ずかしい、その程度のものである。
    「えーっ、兄さんもう大人なのに?」
    「大人は眠れないものなんだ」
     ハルトがからかってきたのに対してカイトはかなり雑に断言してしまったが、なりふりかまっていられない。そのうち本当に仕事中に寝落ちて、やれボタンを押し間違えたとか、やれ観察しているべきところを見逃していたとか、取り返しのつかないミスをしでかすよりは10以上離れた弟に茶化されている方がマシだった。
    「とりあえず湯船には浸かってくるんだよ。普段からお湯張ってるのに兄さんいっつもシャワーだけで済ますから……」
     なぜ湯船に浸からないのか? 単に暑いのが苦手なだけである。あと時間の無駄。手持ち無沙汰。しかしハルトの指示とあれば従わない理由はない。成人男性がゆうに脚を伸ばせる湯船で、カイトは幼少の記憶を掘り起こし、律儀に100秒数えてから風呂を上がった。
    「100秒!? 2分も浸かってないじゃん!」
    「何分浸かるのが適切なんだ」
    「うーん、正解はないと思うけど10分15分は普通に要るんじゃない?」
    「15分……!?」
    「もういいよぉ、とりあえずホラ、端末とか全部自分の部屋に置いてきて。ブルーライト禁止だよ」
     ハルトの自室は年々シンプルなレイアウトになっており、今ではすっかり子供部屋としての風体を失っている。枕を持参したカイトは早々に弟のベッドに寝転がり、弟の枕と自分の枕へ交互に頭を乗せ、やはり適切な高さが分からないと首を傾げた。
    「枕でいいの?」
    「『で』?」
    「はい」
     すらりと細長く伸びた腕はカイトの首元に添えられた。あ、とカイトが言わぬうちにハルトの金色の目が確と現場を押さえる。
    「……腕枕」
    「腕枕だね」
    「25歳の男が」
    「13歳の弟に」
    「……ダメだろう……」
    「ダメかな?」
     なぜ弟がこう乗り気なのか兄は理解しかねた。カイトはどこかハルトに対して強く出られない節があり、可能であればもう少し言い合いたかったが続きは出てこない。ほっそりとした腕橈骨筋に頭をもたせかけ、恐る恐るといった様子で毛布を被る。カイトはいつも壁際を向いて眠るが、ハルトのベッドは壁に面していない。しばらく身じろぎして、結局ハルトの方を向いて落ち着いた。
     弟相手には不適切なのかもしれないが、カイトは目のやり場に困る。目を合わせるわけにもいかないし、やたらと視線を下げてハルトの腹ばかり見ているのもどことなく不自然な気がした。だいたい、弟と同じベッドで眠るのは数年ぶりだ。要領など忘れてしまっていて当然であるし、ハルトはこの数年で別人のごとく背を伸ばしてしまった。小さく庇護すべき子どもは、すくすく大きくなってカイトをくるんだ。自分が小さくなったのでは、と年齢的にありえなくはない想像をして気を散らすが、いい加減耐えかねて口を開く。
    「恥ずかしい」
    「うそだ、僕兄さんにオムツ替えてもらってたけど」
    「それとこれとは話が違うだろう……」
     50センチの赤子の姿をいまだによく覚えている。なにせカイトが12になってから生まれた弟である。赤すぎるほど赤くて、細くて小さくて、おおよそ人間とは思えなかった。その上ハルトは体質が虚弱であったから、その身体の頼りなさは一入である。
     二人が道具とされる前、カイトとハルトの間にはいわゆる普通の兄弟とは異なる、奇妙な触れ合いがあった。子どもが子どもを育てる構図は見る人間が見ればすぐにでも解消されたのだろう。しかしカイトはそうならずによかったと思っている。ハルトすら取り上げられてしまったら自分は何のために生きたのだろうと考える。バイロンと九十九一馬、そして父の因縁。バリアン世界という救い。どれを知っても、誰にどんな理由があろうと、それがカイトの生きる理由に挿げ変わりはしないであろうし、やはりハルトのことは自分で助けに行くのだと思う。手入れを怠って粉を吹いた頬を、骨ばった指がかすめた。
    「眠くなってきた?」
    「……どうだろうな、まだ落ち着かない」
     聞くなり、ハルトはその胸にカイトを抱きこんだ。似ているようでやや甘い体臭にカイトは面食らう。ここで文句を言って、突っぱねて、そっぽを向いて寝るのが普段の自分だろう。そうしてもいい。「天城カイトらしさ」を守るのであればそのようにするべきだが、この子供部屋ではそんな安直な振る舞いが許されないような気がしていた。今だけ、カイトはただ一人の弟になる。
     
    「あ、兄さん起きた? おはよう」
     起き抜けすぐに声は出ない。回らない頭を肘で起こし、カーテンの外の柔い朝日で今が早朝であると悟った。
     夢も見なかった。意識が浮上することもない。夜な夜なつけたままにしているモニターの明かりとも今日ばかりは断絶されていた。身体を起こしてしばらく、手足にじわじわと血が巡るのをカイトは楽しむ。いつも青黒い指先がほのかに温まっていた。
     ハルトは学習机に向かっている。デスクライトは最小限の明るさにしてあって、ハルトの広くなった背にほとんど遮られてカイトの元へは届かない。
    「課題か」
    「うん。二次関数」
     寝た状態から起き上がるのが最も危険である。カイトは壁へ手を突きながら立ち上がり、ハルトが熱心に書き込むノートを覗く。
    「寝れた?」
    「……ものすごく寝れた」
    「だよねぇ、寝顔久々に見たよ」
     オレはハルトより先に眠ったのか。そう自覚するとにわかに眉間が熱くなった。昨晩床に就いたのは日付を越すか越さないかの頃。眠れない普段はまず23時ごろにベッドに入ってみて、丑三つ時に起きだして少し作業をし、また横になり、ということを繰り返しているから、文句のつけようもないほどぐっすり眠ってしまったのはもはや照れくさいとすら感じられた。
     それでも、カイトの爪は桃色になっていた。カイトはハルトの背中に「なあ」と小さく呼びかける。
    「うん?」
    「な、何歳までオレと一緒に寝てくれる……」
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