場地さんの近くにいるのは気が付けば当たり前になっていた
知り合ったきっかけは些細なものだった、俺の家の猫“エクスカリバー”が場地さんの家に出入りしていたんだ
ひとんちの猫に勝手に名前つけたあげく餌付けしてんじゃねえよと思いつつ、人が嫌いなエクスカリバーが懐く奴なら悪いやつではないんだろう、俺は少しだけ場地さんに興味が湧いていった
場地さんは東卍會の壱番隊の隊長らしい
ヤンキーだの暴走族だの、俺はそういう類のものは大嫌いだ
ついでに、何だって自分が一番じゃなきゃ気が済まない性格の俺には「壱番隊 隊長」その肩書が気に入らなかったが、所詮この男も群れないとイキれない弱い男なのだろう
俺はエクスカリバーに免じて見逃してやっていた
弱い男なのだろう…そんな考えもすぐにぶち壊されることになる
少しめんどくさい先輩に絡まれた時だった、たまたま通りかかった場地さんが、近所迷惑だろうって20人はいたであろう相手をいとも簡単にひとりで壊滅させてしまった
「うそだろ…」
「おう、千冬ぅ。ケガねえか?」
千冬が怪我したらペケが悲しむからな。なんて笑いかけてくるもんだから、俺は自分がダサすぎて「そっすね…」なんて笑い返すことしかできなかった
それから中が深まるのはあっという間だった
この人がいる限り俺は一番になれねえ、だったらこの人についていきたいそう思った
場地さんも俺の心意気が気に入ったとかで壱番隊へ入隊させてくれた
いち隊員として、友人として俺はいつも場地さんと一緒にいた
*****
「千冬ぅ、お前進路どうすんの」
「あー…パイロットになりたいんすけど、結構金かかるんすよね」
働いて金貯めて、それから勉強してなんて考えていた時期もあるが年齢制限もある為あまり悠長なことは言っていられなかった
「俺、ペットショップやりたいんすよ」
「まじ?!」
場地さんはぐっと身を乗り出すとキラキラと目を輝かせて俺の顔を覗き込んできた
「俺、子供の事ペットショップやりてえって思ってたんだよな」
「今は違うんすか?」
「おう…」
もごもごっと恥ずかしそうに口ごもる場地さんを見て俺は一層興味がわいた
「言ってくださいよ」ってせかせば
「獣医になりたいんだ」
って強い意志を含んだ言葉でそうかえってきた
「きれいごとかもしれないけどよ…誰も死なせたくないんだよ」
まるで何か大切なものを失った経験があるのかと思うほど深い悲しみを含んだ声色
「それにそいつらだって大事な人を残して逝きたくねえと思うんだ」
だから俺はそいつらの手助けがしたいんだ
言い終わると「やめやめ」っと手を振ってこの話題は終わりだと話を無理やり終わらされてしまった
「俺…その気持ちすげぇわかるっす…」
大事な人が急にいなくなってしまう感覚
そしてそれを救うことのできなかった無念さ
「父ちゃん亡くしてるからっすかね?」
記憶がないほど幼いころの出来事でも潜在的に残っているのだろうか
「大切な家族を見つける手伝いをする俺と、大切な家族の健康を支える場地さん…もしかして最強コンビじゃねえすか?」
しんみりしてしまった空気をなんとかしたくて、わざとおどけたように言えば
「確かにな…」
場地さんは真面目な顔でぼそっと答えた
「じゃあ決まりっすね」
場地さんへすっと小指を差し出すと
照れくさそうに俺の小指に場地さんも自らの小指を絡めてきた
「指切りげんまん」
END