歯止めがきかない遊戯 秋の夜長のことだった。といっても、白紙化した地球にもはや四季などなく、あくまで暦の上での話だが。
久しぶりにマイルーム担当となった伊織は、立香がレポートを作成するのを待つ間、スツールに腰掛けて本を読んでいた。蛍光灯が白い光を落とす部屋に響くのは、立香がコーヒーを飲む時に立てる僅かな音と、伊織が本のページをめくる時に立てる紙が擦れる音のみだ。
そうして三十分ほど時計の針が進んだ頃。不意にこれまでと違った音が聞こえてきて、伊織は顔を上げた。音の発生源は立香だった。足元の引き出しを開けて何かを探している。静かに見守っていると、左の手が赤い小箱を引っ張り出した。箱の上部をぱかりと開けた彼女は、中の白い袋を破って細い棒を一本取り出し口へと運ぶ。パキ、と棒が折れた後、ポリポリと咀嚼する軽やかな音が伊織の耳朶を打った。立香はその間も真剣な表情でタブレットとにらめっこしている。
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