大天才が往診に来てくださる話熱い。熱い。熱いが過ぎる。
もうこのまんまくたばっちまうのかという程の高温。そして全身の痛み。倦怠感。
ウ“ウーと唸りながら寝返りを打つ。貼り心地のおさまりが悪くて、何度も貼っては剥がしてやった冷却剤がペトリと落ちた。軟弱な粘着成分め。もう全部億劫になって、放って置いてやろうかと、また寝返りを打つ。熱い。熱い…。
「オイ、凡人」
「ハッヒョェ」
およそ人語とは思えない鳴き声が出た。エ、え、誰です。どちら様でして。アレは誰だ、誰だ、誰だ。アレは、
「この大天才が往診に来てやったというのに」
そう大天才である。なにゆえ??全然分からない。夢か?死ぬのか?
麗しの大天才はその白魚のような指を——包帯に巻かれているのだから白いのなど当たり前だが、マ、賛辞できればどうだって良いのだ——顎にやって、顔を覗き込んできた。
「…ふむ。まァそう顔色も悪くあるまい。熱冷ましは飲んでいるようだし…、おい。冷却シートは貼らなければ意味が無いぞ。何事もそうだ。武器や防具は装備しなきゃ効果がないのだ。全く仕方のないやつだな!どれ、貼ってやろう。替えはどこだ?」
ヒェッ。全く恐れ多いことである。死ぬのか?
「死ぬなよ…大天才が必死に診てやっているのにィ…」
「アッハイ、左様で」
大天才は素晴らしく美しい所作で冷え○タをおでこに乗せてくだすった。冷た…くはない。もうアッツイ。熱が上がったのか下がったのか、もう分からない。でも寿命が100年伸びた。これで元気にやってゆけます。ありがとうございます。ありがとうございま…
「…ハッ」
見慣れた天井。ああ…そう、そうね。夢というものはかくも麗しき…。次の配信がとても楽しみです。
絶望感を皮肉るように軽快なチャイムの音が鳴った。…何度も。どなたか来たようだ。
「あー…、ハイハイ。今出ます」
「オイ、凡人!往診だぞ!」
今度こそ、意識が遠のいてしまった。