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    アリコテ

    出会いの話「やだあああああおうちかえるううううああ!!」
    4歳の頃の記憶。
    お爺ちゃんの里帰りに初めて連れて行ってもらった時、来るなり泣き喚いた。周囲には見たこともない化け物がうようよいて、山を歩いて歩いて、身体を叩きつける冷たい風と砂の礫、それから逃げるように入った天幕は薄くて寒くて、砂埃に汚れている。土と砂に塗れた真っ黒な手で「アリクくん」て触られるのが怖かった。

    いくら泣いても豪快な母親は笑ってばかりで、父が折れて一日だけ早めに帰らせてくれたのを覚えている。
    「お爺ちゃんもいっしょに帰るうう!!」
    「お爺ちゃんは余生はこっちで暮らす、またおいでアリク」
    「やだああああ!!」
    何が嫌だって、お爺ちゃんとまた会うにはこの地獄のような場所に行かなくてはいけない、ということだった。それも知らずに周囲は可愛い可愛いと言っていた。こんな非文明的な生活をしている奴らに僕の心はわからない、そんなこともまた悲しくて泣いたのだった。
    最後まで泣いてばかりのひどい別れ方だったと思う。
    「アリクは本当にシャーレアン人だねえ」
    「大きくなったらゼラらしくなってくれれば良いんだけど」
    帰りの船でそんなことを言われていたのを泣きつかれて微睡んだ頭でも覚えていた。

    それから18年。
    シャーレアン魔法大学も全課程を優で収めたアリク・ウラは長い長い人生の夏休みを謳歌していた。部屋に引きこもって本を読み、絵巻を読み遊戯三昧。偶に外に出たかと思えば絵巻物の歌劇を楽しむ。友人無し。恋人もちろん無し。敵は多くても味方は親ぐらい。ただただ動きたくない。家で楽しく本を読んでいたい。
    そんな無気力引きこもりに成長していたのだった。
    「アリクあんたちょっとは運動しなさい!」
    「疲れるのでやりませーん」
    「来年はお父さんの会社入るのよ!?そんなんで従業員さんの評判良くなると思う!?せめて働きなさいバイトでもなんでもやって」
    「エーテル学鉱物学全部博士号取りましたから大丈夫です〜バイトって、お金稼ぐって、お家にお金あるのにそんな必要無いし…」
    「ハア!?」
    これが母親の逆鱗に触れた。その晩呼び出されたアリクは神妙な顔の父とニコニコと笑いながら静かな怒りを零す母に言い渡されることになる。
    「アリク、エオルゼアに留学しなさい。彫金、採掘を学びなさい。ウラ家なら当たり前よ」
    「えっ…金属工芸も鉱脈も地理学と芸術学で履修してますけど…」
    「技を覚えろって言ってんのよ」
    「そんなの本読めば留学しなくても出来ます」
    これは本当だ。アリクがこんな引きこもりになってしまったのは彼の天才肌のせいだ。やり方を理解すれば大体のことは出来る。突き詰める気のない彼にはこれで十分だった。
    母は深くため息をついた。とにかくよく出来る息子だが性根が腐っている。やりたくない事はどんな手を使ってでもやらない。口論は滅法強く説得は聞かない。こういうふうに育ててしまった自分を恨み、とうとう彼女は触れないであげていたアリクの弱点を突くことにした。
    「私の家はね、成人の前に旅に出てお嫁さんを見つけないといけないのよ。アンタそれやりなさい。お嫁さん見つけるまで帰ってこなくて良いわ」
    「嫌ですけどなんですかそれ初めて聞きましたし今時そんな前時代的な風習あります?アジムステップって、だからいつまでも殺し合いしてるんですよ」
    「嫌ならいいのよ、こっちで何とかするわ。私の実家でお嫁さん見つけてきなさい」
    アリクは露骨に嫌な顔をした。母の実家とは、ダズカル族だ。野蛮な女だらけのあの一族。一度だけ連れて行かれたが死にかけたために二度と行っていない。あんな草原の中央に位置して狩りばかり。
    「いや……そういうのは、もっと広い場所で探すべきじゃないかなって…」
    「じゃあエオルゼアね」

    エオルゼアか、アジムステップか。

    こうしてアリクにとっては最大の選択を突きつけられ、彼はエオルゼアに向かったのだった。





    というのが一ヶ月前。
    アリクはクイックサンドのテーブルで一人項垂れていた。
    ベスパーベイからチョコボキャリッジに揺られて数時間の間はあまり見ない景色の美しさに(悪くないかもしれない)なんて思ったものだがすぐにそれは誤りだと知った。
    この街、おそろしく治安が悪い。道中通ったリムサロミンサよりはマシだが裏路地に入ればごろつき、喧嘩、スリの数々。商店街は栄えているが砂埃でどれも汚れていて買えそうに無い。宿ですら砂は払いきれない。
    ウルダハで良かったことといえば食事が美味しい、くらいだ。
    結論。帰りたい。
    そんな思いでうだうだと宿に引きこもっていたらお金がなくなった。まあ一ヶ月何もせずに宿に泊まり続ければそりゃそうなる。しかしアリクにとって金が無い=何も買えないというのは人生初の危機であった。
    既に家に手紙を送っていたが返事はない。出る前に「お金がなくなる前に稼ぐのよ」と角が削れるくらい言われていたのだからそりゃそうだ。
    そう、とうとう働かなくてはならない時期が来たのだ。しかも即金で。
    先日彫金師ギルドには挨拶したが他人と関わるのが怖いのとあの魔法人形に悪口を言われて悲しかったのでそれ以来行っていない。採掘師ギルドは見るからに危ないので敷居すら跨いでいない。
    そもそももっと早くに入って慣れておけ、というのがごもっともだが、新しい場所で働くという行為はアリクにはかなり怖いことなのだ。
    「そろそろお昼の時間だけど…」
    財布を見る。10ギルしか入っていない。何も買えない。食べられない。お金が必要だ。直ぐに。

    アリクはモモディを見た。彼女はニコニコ笑いながら冒険者とかいう自由業の方々と話をしている。
    冒険者の依頼。
    即金を狙うならこれしかない。魔法大学で巴術は収めている。依頼の貼り紙を眺める。1000ギルは安すぎ。他人と関わらずに一回で100000ギル稼げないか。あれ、そんなの無いのかな。
    「あ、これ、10,000ギルだ…」
    彼が選んだものは「アライアンスルーレット:不足ロールヒーラー」だった。


    人生で一番泣き叫んだ日は4歳のアジムステップだと思っていた。22歳の今日で更新したけど。
    気がつけば何が真っ暗な世界。怖い化け物。ガタガタ震えても知らずに他の人たちは走って行ってしまう。置いて行かないで、となんとかついていくが見たことのない巨大なアーリマンに腰を抜かした。真っ黒に魔力で染まった床に転げて身体中が痛い。目の前では化け物が何かを放とうとしているところだが怖くて足が動かない。死ぬかも、その時だ。
    「おい、こっちに来い!」
    腕を強く引っ張られる。間一髪、光線がアリクの目の前を通り過ぎた。
    「まずは自分を回復しろ!死にてえのか」 
    雪に落ちた椿の花のようなアウラゼラだった。真っ白な髪に真っ白な肌。赤い瞳がじわりと輝いている。美しい姿に大きな斧と赤い服がまるで血が滴るようで、妖艶という言葉が良く似合う男だ。今自分が所属しているアライアンス?のタンクだった。
    「あ、あ、……」
    「回復!」
    「あっ、はい!」
    慌てて自分を回復する。痛みが引いていく。目の前の男は震えるアリクの角を撫でる。この人素手だ。斧を持っているのに手まで綺麗で、赤い爪が角の節の部分をカリカリと引っ搔いていくその感触が頭に響いた。
    「落ち着け。うん、ちゃんと回復出来てる。よくできた」
    「……」
    色づいた唇がにこりと弧を描く。笑顔を向けられている。立ち上がると自分より大きいことがわかる。綺麗な人だ。
    「まずは俺だけ見てろ」
    「は、は、はい!」
    それからは夢心地で、何か色々あぶないものに遭遇した気がするがよく覚えていない。斧を振るう彼が綺麗だったなというくらいで。彼がさっさと帰ってしまった後もアリクはその場に立ち尽くしていたのだ。こんなんでも報酬の減額は無かったこととこれだけ頑張ったのに10000しか貰えない現実に泣きながらも、初めて自分で稼いだお金で食事をしながら、彼の事を思い出す。
    「コテツ・コウタさん……」
    自分のパーティに記載されていた名前をなぞる。コウタ族なんていなかったな、アジムステップの人じゃないのかな。名前が東国系だし。
    「もう一度会えるといいな……」

    こんな感じで世の中を舐めた大学生、アリクの人生修行が始まったのだ。
    この後彼と再会することになるが、彼が見た目と違い粗野粗暴、アリクとは別世界の人間だということが判明する。あの時の親切もアリクがヒーラーだったからという理由だと知りアリクはまた泣くことになる。
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