落花枝に帰らず げんなりする程の熱帯夜なのに、背筋はずっと寒いままだ。目を輝かせて策を語る陸遜と、げらげら下品に笑いながら酒を呷る甘寧。狭い室の中で盛り上がれていないのは俺だけだった。
「呂蒙殿、私は火計だけを推しているのではなく、場面に応じた最適解を検討した結果、全て燃やすのが妥当と判断しており」
「喧嘩なんざ覚悟決めてぶっこみゃいいんだろ」
「このような不届き者がいることも承知しております。火を着ける順序は臨機応変に対応できます」
「あっちぃのに火の話止めろや! あ、おっさん酒もうねえぞ!」
「呂蒙殿に対してあまりに不躾ですよ!」
陸遜と甘寧が言い合っている。賢い軍師さんの言い回しを一切理解していないあたり、かえって馬鹿が優位そうだ。後ろの戸がかたんと音を立てる。閉まった戸に向かって、輩は煩い声をぶつけた。
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