花霞 あなたはいったい誰なのですか? と真顔で聞かれるのはさすがにこたえる。
オルコットが負傷した。パーティー中、整備不良か恨みか何か、天井から照明が落ちてきて、それから俺を庇ったせいだった。普段ならケガをしようがピンシャンしている男だったが、あたりどころが悪かったらしい。俺に覆い被さって動かなくなったオルコットの背をさすりながら、彼の死んだ息子や妻に祈っていた。どうか彼を救ってください。そして彼を連れて行かないでください、と。
幸い命は助かった。ただ記憶が無事ではなかった。病院で目を覚ました彼を見て思わず流れた涙は、俺のことなんぞちっとも覚えていません、という態度にすぐ引っ込んでしまった。
まるでフィクションのような記憶喪失だ。自分のことは覚えていない。過去もよく分からない。ただ身に染み付いた動作がある。フォークは持てる。トイレには行ける。モビルスーツは知らない。ガンドは知らない。ジェタークも知らない。俺のことなんかさっぱり。地球も、テロも、亡くした家族のことも……。
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