学問なき経験は経験なき学問に勝る
土方歳三は、決して寡黙な男などではない。
血の気が多い連中が集う隊内で、統制の為に敢えてそのように振舞う場面はあった。
鬼の副長、と呼ばれ恐れられた時代もある。
だが、常日頃から気難しい表情をしたまま過ごしていたのかというとそうではない。
基本的には話好きな、気のいい男であった。
しかし、そんな土方が今は完全に沈黙している。
何故か。
様子を見、考えているのだ。
土方をそうさせている原因は、目の前に座っている客である。
この客は15分ほど前に土方がオーナー兼バーテンダーを務める店を訪れ、強めの酒を注文した。
いつもは注文しない酒である。
内心首を捻りつつも注文のまま酒を提供すると、客はグラスを掴むなり一気に酒を呷った。
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