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    あまな

    @harapekoamana

    大体らくがき、ごくたまに文章を投げていく(予定)。
    リアクション有難うございます。嬉しいです。
    ⚠ネタバレあり

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    あまな

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    もったいない精神であげてみる超短文。
    付き合ってはないと思われるが距離は近いネクシキ。

    ##すばせか
    ##ネクシキ

    待つと言うことは、これまでずっと苦しいことだった。

    会いたい会いたいと願ってもずっと叶わなかった。行方知れずのままの三年間。
    一度だって忘れたことはない。忘れたくなんかなかった。
    最後に聞いたわかったという電話越しの声が耳にこびりついている。私を呼ぶ声を忘れていない。目線の高さも表情も全部覚えてる。
    けれど最後にみんなで一緒に撮った写真を眺める度寂しくなる。
    私もみんなも変わっている。君と一緒に映る写真の私から、今の私は少しずつ離れていく。みんなも、写真の中の姿と今は変わっていってる。けれど、私が知る君は、写真の中の君のまま、いつだって寸分変わらず同じ姿でいる。
    今はどんな声をしているのだろう。どんな姿なんだろう。どんな表情をしているのだろう?無事でいるんだろうか?
    疑問や不安だけが降り積もって、時間だけが過ぎていく。私は待つことしか出来なかった。だからこそ膨らむ不安に押し潰されないように、ただ必死で。

    待つのは、苦手だ。苦しいから。寂しいから、悲しいから。


    ――待つのは、苦手だったのに。




    「ひぇ…っ!」

    ハチ公の直ぐ側でスマホを弄っていたら、頬に急に当てられた冷たい感触に、触っていたスマホを放り投げかけたのを既のところで止めた。頬を片手で押さえながら慌てて振り返れば、驚いたように目を丸くした、制服姿のネクがペットボトルをこちらに差し出してこっちを見ていた。
    視線が合って、少しの間のあとネクはふ、と息を漏らした。

    「変な声」

    そう言ってネクは俯いてぷるぷる肩を震わせた。それを見たら急に羞恥が湧いて、震える肩から俯いた頭へと視線を向ける。

    「も…もう!来たんならまず声かけて!」
    「ごめん」

    ネクは頭を上げた。可笑しそうに目を細めて笑っている表情に私はよりむくれてみせた。そうすれば、ネクはまた悪かったよ、と言いながら改めてペットボトルを差し出してくる。

    「ほら、これで機嫌直せよ」
    「え…あ、これ!」
    「飲みたかったんだろ?この新作の紅茶」

    さっきコンビニ寄ったら売ってた、と言いながらネクは私が肩に掛けていたスクールバックと、バッグを挟んでいた腕の間にペットボトルを差し込んできた。慌ててそれを掴むと、ネクは肩を竦める。

    「待たせた詫びも含めてる。それで許してくれ」

    掴んだペットボトルと、笑うネクの顔を交互に見る。
    飲みたいけど全然売ってるとこに出会えない、って言ったこと覚えていてくれたんだ、とか、何でそんな優しい顔して笑うの、とか、やっぱり前より声ちょっと低くなったな、とか。色々過ぎったけど、結局。

    「マルシー…一緒に行ってくれなきゃ許さない」

    そう呟いたら、ネクは瞬きをしてから、穏やかに笑った。

    「じゃあ早く行こう」

    そう返してきたネクは身体をマルシーの方へ向ける。その横顔を眺めて、私は結局不貞腐れた気持ちよりも嬉しさが込み上げてきてしまう。歩き出したネクに駆け足でついて行って隣を歩き出す。そうすればネクは横目に私を見た。視線が合えば、ネクはやっぱり目を細めて笑った。それを見て私はネクを下から覗き込む。

    「なんでにやにやするの」
    「にやにやなんてしてない」
    「してるよ。なあに?」

    あー、とネクは声を漏らしながら口を押さえる。ちょうどそこで横断歩道に差し掛かって、ネクが足を止めたことで信号が赤だと気がついた。同じように足を止めてネクを改めて見上げる。口を押さえたまま、ネクは私の方に顔を向けた。

    「帰ってこれてよかったなって」

    そう呟いたネクを見上げたまま、今度は私が瞬きした。心做しか、ネクの耳が赤い。それを眺めていたら、どうしても口元が緩んでしまう。

    「うん。私も帰ってきてくれて嬉しい。ネクと一緒にいれて、凄く幸せだよ」

    思ったままを、口にした。
    ネクが消えたあの日からずっと、待つのが怖かった。帰ってこなかったら、なんて考えてしまった日だってあった。それでも待つしかできなくて、いつしか、待つことそのものに苦手な意識を持った。
    …でも。
    ネクが帰ってきてくれてから、待つのはもう苦手じゃない。むしろ楽しみだった。遅くなっても、ネクは私の前に必ず現れてくれるから。

    ネクが、私の傍にいてくれることが、いつだって嬉しい。
    少しだけ見上げる目線を、低くなった声を、穏やかな表情を。…全部、ずっと、知りたかったものを目の前にできることに、喜ばないでいられるはずがない。

    ネクは私を見たまま固まっていた。どうしたの、と聞こうとしたらちょうど信号が青になって、周囲の信号待ちの人達が動き出した。はっとして、私はペットボトルを鞄にしまってから、ネクの腕に手を回した。

    「ネク、急がないと」

    腕を引いて歩き出すと、ネクははっとしたように慌てて動き出して、隣を歩いた。横断歩道を渡りきって、そのままマルシーの方向へと足を動かしていたけれど、ネクが急にだんまりで。どうかした?と聞こうとしたところで、ネクの視線が、私が手を回した腕へと向けられていることに気が付いて。

    「あっ、…ごめん」

    結果的にくっついていた腕から慌てて離れた。いつもエリと一緒にいるときのように振る舞ってしまった。距離感を間違えたかも、と思えば湧いてくる羞恥に頬が燃え上がりそうなくらい熱い。
    けれど慌てて離した手を、今度はネクの手が掴んできて。
    驚いてネクを見上げたら、何故かネクまで驚いたような顔をするから、つい足を止めて黙って見つめ合った。ネクは何が言いたげに唇を一瞬震わせたけれど、結局視線を泳がせ、唇を引き縛って俯く。そうして、やがてネクは私の手を掴んだまま前を向いて、改めてマルシーの方向へと歩き出す。

    「迷子になったら困る」

    ぶっきらぼうな声だった。手を引かれるまま少し後ろを歩いて、ネクの顔を斜め後ろから見上げた。
    今度はちゃんと耳が赤い。明確だ。
    それを見たらついまた口元が緩んだ。改めて隣を歩く。

    「そうだね。ネクは渋谷久し振りだし」

    握られた手を握り返した。ネクはそうだ、とやっぱりぶっきらぼうな声で返事をくれた。
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