「実は私、未来から戻ってきたんです」
椅子に深く腰掛け優雅にお茶を飲みながら、ボクオーンは壁に背を預け立つダンターグに笑いかける。
「この先、私達は苦難の道を歩み、無念の果てに消えてしまいます。
この様な結末は望んでいない、もしもやり直せるなら……と強く念じていると、何故か時間が巻き戻りました。
理由はわかりませんが、これはまたとないチャンス。
私はあの結末を、変えたいと思っています」
「どうしてそんな話を俺に?」
「未来を変えるには、貴方の力が必要不可欠でからです」
カップを置き、ジッ……と真剣な眼差しを向けるボクオーン。
そんな彼を、ダンターグは睨みつけながら口を開く。
「嘘だろ」
「はい、嘘です」
見抜いたダンターグに、あっけらかんとボクオーンはネタばらしをした。
「最近、こういう時間逆行というものが流行っているそうですよ。
クジンシーやロックブーケは勿論、ワグナスもすぐに騙せたのに、貴方は引っかかりませんね」
「つまんねぇ悪戯すんな、らしくねぇぞ」
「良いではないですか、たまには。
本当にそんな恐ろしい未来が訪れぬ様にしようと、気合いが入るでしょう?」
悪びれる様子もなく、用は済んだと言わんばかりに席を立つボクオーン。
その時、机が揺れた振動でカップが落ちた。
床に叩きつけられ割れる……寸前に、ダンターグが掴み事なきを得た。
「どんくせぇ事してんじゃねぇよ」
「これは失礼しました」
礼を言ってカップを受け取り机の上に戻し、ボクオーンは立ち去った。
何も知らない彼の背を見送り、ダンターグは心の中で嘆息しながら独りごちた。
(本当に未来から戻っていうのなら、“また”そんな無駄な話をしたり物を落としたりなんかしないだろうがよ)