我が身はツバメに非ず。「ただいまぁ」
些か元気の無い声に覚えた違和感は、出迎えた矢先に確信に変わった。
関東近辺で記録的な大雪が観測されたその日。金の髪を真っ白に濡らして、金時はアルバイト先から帰ってきた。
半身でドアノブを閉める姿に、俺は「おかえり」の四文字を忘れてしまった。それくらい、それはもう酷い有様に映ったのだ。
厚手のライダースジャケットは肩から腕からぐっしょりと濡れそぼり、裏がフリースの黒デニムもより深く変色している。ブーツからは床を踏む度にぐしゃっと嫌な音が潰れ出て、ぱちりと振り向いたまつ毛にも細かな雪が張り付いていた。
「兄貴……」
金時がもう一言発しようとする前に、俺は来た廊下を早足で振り切った。洗面所に飛び込み、カラーボックスの一段目から新しいバスタオル、一番下からバスマットを両手に提げる。
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