新しい目標 日がゆっくりと沈む暑い季節。今日もフィガロは来慣れた家のインターホンを押す。
週に一回、夕方から夜の二時間。来年大学受験をするファウストの家庭教師になって二年ほど経った。
明るい彼の母に出迎えられ、フィガロはいつも通りの温和な笑顔を浮かべた。ファウストは無表情のままだが、いつだってフィガロが来たら彼の部屋から降りてくる。
最近暑いですね、なんて雑談をしながら手を洗い、ファウストに連れられて二階へ。扉を開ければ、ひんやりとした風に体が包まれた。
奥の長机の上には参考書とノートがデスクに広げられている。そして机の下にしまわれた回る椅子の隣には、いつもフィガロが座る背もたれのある椅子が置かれていた。
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