世界のミカタ 彼は自由な男でした。十三年にも渡る陰惨な世界大戦中も、彼の周囲だけは、戦争が始まる前後と変わることはありませんでした。はい。この国は、他の国のように住居地に爆撃を受けたり、国民が民兵として駆り出されたりということはありませんでした。しかし、さすがに世界大戦の暗い影が薄く、この国に被さっていたのです。その間も、彼はずっと変わることはありませんでした。調べたいものを調べ、作りたいものを作り、話したいことを話す。私も含めた周囲の人間たち――あの研究所に勤めていた人間たちは、その自由さに救われていた節もあったでしょう。
いえ、決していい意味ではなく。
ああ、この男のせいなのだ――、と。
――世界がどうであろうと一切変わることなく自由なこの男が。
1894