Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    nktu_mgd27

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 1

    nktu_mgd27

    ☆quiet follow

    じゅーりんほよん、B.E.のそばにいたモブの一人称落書き。

    世界のミカタ 彼は自由な男でした。十三年にも渡る陰惨な世界大戦中も、彼の周囲だけは、戦争が始まる前後と変わることはありませんでした。はい。この国は、他の国のように住居地に爆撃を受けたり、国民が民兵として駆り出されたりということはありませんでした。しかし、さすがに世界大戦の暗い影が薄く、この国に被さっていたのです。その間も、彼はずっと変わることはありませんでした。調べたいものを調べ、作りたいものを作り、話したいことを話す。私も含めた周囲の人間たち――あの研究所に勤めていた人間たちは、その自由さに救われていた節もあったでしょう。
     いえ、決していい意味ではなく。
     ああ、この男のせいなのだ――、と。
     ――世界がどうであろうと一切変わることなく自由なこの男が。
     ――この男こそが、世界を混乱に招いたのだ。
     ――だから我々のせいではない。
     ――ひとえに罪を背負うべきは、この男一人なのだ。
     そんな風に、考えることができたのです。

     先程、彼のことを自由、と言いましたが、振る舞いが奇異だったわけではありません。彼はコミュニケーションさえ取らなければ、いたって普通な男なのです。研究所には安価なアパレルのポロシャツと暗色のスラックスを着て来ました。肩のあたりまで伸ばした髪は自然と整えられていましたし、部下の一人ひとりにも丁寧な口調で応えていました。仕事の優先順位が好奇心によって歪められることはあったものの、プロジェクトの致命的な遅れになることはありませんでした。どのプロジェクトの進捗も把握して、遅れのあるグループには個別で声掛けしていました。こうして説明してみると、彼は普通どころか、「研究所所長」としては非常に適切な男だったのでしょう。
     ああ、リボン――ですか。よくご存知ですね。そのことは、ほとんどの人間が知り得ない情報でしょう。実際に彼と会ったことがあるか、もしくは彼と会った人物を知っているか。そのどちらかに当てはまらなければ知らないままです。
     ええ、色は決まっていませんでしたが、彼は研究所所長になってしばらくしてから、失われた右目の部分にリボンを巻いてくるようになりました。それまでは通常の眼帯でした。ほら、白くて四角い、所謂「眼帯」です。眼帯の代わりにリボンを巻くなんて、あまり聞いたことがありませんから、私は彼にその理由を尋ねたのです。すると彼は「所長になったんだから、目立つ方がいいでしょう。ぼくは影が薄いから」と微笑んで答えました。細められた瞳と緩やかに上げられた口角は、ほんの少しの品の良さと隠しきれない照れを含有していました。確かに彼が珍しく黙っているときは、ふと気配そのものが消えるようなことがありました。勿論、その場にいるのですが、まるでそこら中に満ちる空気やなんてことのない壁と同じように、一つの背景と成り果ててしまうのです。そんなときふと、何かの拍子に彼がそこに立って私たちを見ていることに気づいたことがありました。私たちに向けられたその左目を見たとき――私は彼の異名の意味を、心の底から理解した気がしました。

     ――平等主義者(イコールマン)。

     彼の乾ききった視線は平等に、私たちへ、そして世界へ、向けられていました。私たちがどう動こうと、何を話そうと、彼の視線はさざなみ一つ起こさず、究極に凪いだままでした。純水のように、不純物の一切ない、ただ「在る」だけの視線が、そこには存在したのです。
     例え、今彼の目の前にいる私が、彼の肉親だろうと、吸血鬼のような化け物だろうと、とんでもない美女であろうと、一切変わらない――そのことを、視線を向けられた側に、確信させる視線でした。そして恐らく、その「平等」は自分自身にも、向けられているのでしょう。自分がどうなろうと、彼の視線は変わらない。彼自身が、彼自身を、どうでもいいものとして捉えているのです。ただの世界の一部だと理解しきっているのです。だから私たちも、彼を見過ごしてしまうような世界の一部として認識してしまうのかもしれません。
     彼にとって、世界はどのように見えているのでしょう。私は優秀でこそありませんが科学者の端くれです。まだ解明されていない、言葉で説明できていない現象が世界に溢れている。私にとって世界は輝かしいものです。しかし少しでも世界に希望を見出しているならば、世界をあのように見ることはないでしょう。いえ、もしかすると彼は世界にあるもの全てを平等に輝かしいものと思っているのかもしれません。
     はは。笑いましたね。ええ、私も笑いました。そんなことあるはずがありませんから。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏💖👏👏👏👏👏👏🙏💴😍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator